夕方から夜に変わる空の頃
隣の彼女に合わせるように、ゆっくりと足を進める


今俺の隣を歩いてる名字と付き合うようになったんは、ほんの2週間前

お互いクラスも違うから、共通の友達もあんまりおらんし
今までそんなにしゃべる機会もなかった

やから、2人でいる時
どんな話をしたらいいんか、まだちょっと掴めてない。
手探りの状態や。

早くこの距離が無くなればいいのになぁと思いながらも
このもどかしい感じさえも愛しいと思う自分は
なかなかにのぼせ上がっていると思う。

だって最初に好きになった時は喋ったこともなかったんやで?
それが今では彼氏と彼女。
そら調子のってまうやろ。



ってあかんあかん
一緒にいたらいっつも一人で感慨に浸ってしまって「今日も大したこと喋れんかった」て後悔するんやった。

今日こそは俺のポイントが上がるような話でどかーんといったる!



「…今日も寒いなぁ」

「そうだね」







あかん!

終わったらあかん!





いつもやったらもうちょい会話続くねんけど…
なんか今日は名字の様子もちょっとおかしい…?


右隣りを見ても、見えるのは名字のつむじ

いつもやったら照れながらも俺の方見てくれるねんけどなぁ…
さっきから下を向いて自分で自分の手をなんやもによもにょしてて、あんまりこっちを見てくれへん。



おかしいな…と思いながらも自然と俺の目は柔らかそうな名字の手に釘づけになった。




ちっさい手やな

強く握ったら折れてしまうんちゃうやろか


手、繋ぎたい
触れてみたいな…



でもあかん。
手を握ってしまったら、そのまま離したくなくなってしまう。


もう結構時間も遅い
謙也とかとやったらまだフラフラ遊んでても問題無い時間やけど、女の子をあんまり遅くまで連れ回すのはよろしくない。


無事に名字を家まで送り届けるのが俺の使命…ん?


頭の中で握り拳を作りながら、勝手に意気込んでた俺の右手に
ふんわりと温かい、マシュマロみたいな感触



もしかして…いやそんなはずは、と少し動揺しながら見おろすと




「ご…ごめん…!勝手に、つないじゃった…」

そこには顔を真っ赤にして目をパチパチしてる名字




あまりに突然のことに、俺の思考回路がしばらく固まった



この柔らかい感触は、つまり名字の手で…
その感触が俺の手にあるということは

今俺と名字は手を繋いでいるわけで…




考えがまとまった瞬間、一気に顔が熱くなるんがわかった。
それと同時に、自信無さ気にするする離れていく名字の手に気付いた

このままやとはずれてしまう



せっかくの温もりが逃げへんように、ぎゅっと名字の手を強く握り返した。



恥ずかしそうに笑う彼女から、ますます目が離せへん



「ずっと、手…繋ぎたかったんだー…」


あかん

そんな笑顔でそんなこと言われたら


少し様子がおかしかったんも
手が落ち着きなかったんも
きっとそのせいやったんやな



ますます大きくなる愛しさに、もっともっとと
欲深くなる



「なぁ…もう少し、寄り道せーへん?」


「うん…!」






あと5分でも

あと10分だけでも


もっと触れていたいんだ。