気付いてしまった。


自分の気持ちに。


私は精市が好きなのだ。


気付いた瞬間、何ともいえない甘さを感じた。
まるで綿菓子をかじったような。
世界がパステルピンクでキラキラするようだった。


だからといって、私達は何も変わらないのだけど。

いつものように会えば挨拶をして、他愛のない話をして、笑う。
前よりどきどきしてしまうのはしょうがないでしょう。

親友のみっちゃんに、このことを伝えたら、やっと気付いたのか!と喜ばれた。(え?私より先に気付いてたの?)






「最近名前子、なんか変わった?」

学校からの帰り
駅から家へ向かう道で精市に出会い、こんなことを言われてしまった。


「そう…?普通だけど」

前に精市に指摘されたクセ、嘘ついてる時はすぐ目をそらす、が出ないように
平気なフリをして言った


「ふぅん。…まぁいいけど」


うまくごまかせただろうか…
少し緊張するけど、こうして二人並んで歩くのが
とても嬉しくて、そんな不安はどこかへいってしまった。


すこし前は、何でもない普通のことだったのに。人間とは単純なものだ。
今じゃ毎日駅で精市の姿を探してる。





今日もいるかなーと駅の辺りを見回したけど、今日はいないみたいだ。

しょうがないよね。
部活で忙しいだろうし。

駅で会えなくても家で会える。


そう思って歩き出した時、立海の制服を着た二人の女の子と目が合った。







幸村くんが好きなのか
好きでもないのに周りをちょろちょろされたら迷惑だ

幼い頃から幸村くんしか男を知らないから好きだと勘違いしてるんじゃないのか







「そんなこと言われたの?!」

「うん…」

次の日の朝、学校に着くと同時に机にうつ伏せながら
みっちゃんにボヤいた。


「そんなの気にしちゃだめよ!そんな奴らに名前子の何がわかるってーのよ。嫉妬だよ嫉妬!」


「…うん。ありがと」


でも、少し納得してしまったんだ



幼い頃から幸村くんしか男を知らないから好きだと勘違いしてるんじゃないのか


そうなのかもしれないって、ちょっと思ってしまったんだ


確かに幼稚園の頃も、小学生の頃も、男の子といえば精市しかいなかった。

いや、男子生徒は当然いたし、たま〜にからかわれたりしたけど
なぜかすぐに泣きながら向こうから謝ってきたり

サトウくんが名前子ちゃんのこと好きなんだって〜なんて噂がながれても
数日後にはなぜかサトウくんは目も合わせてくれなくなったり

とにかくいつも私の隣にいる男の子は精市だけなのだ。


人の目は気にしないって決めたのに


わからない。
これが恋だと思ったのに

初めて思ったのに

勘違いだったのだろうか


がまんした涙が鼻の奥をツンとさした








学校が終わり、いつものように駅から家へ向かう。

今日は精市に会いたくない。
とてもうまく笑える気がしない。

でもきっと、こういう日にかぎって会ってしまうんだ。

他の人に隠れるように、背を丸めて警戒しながら進むその先に
やっぱり見つけてしまった。


遠くからでもすぐに分かる、顔立ちの良さと上品な雰囲気



でもまだ向こうは私に気付いてない。
コソコソ逃げるように、静かに走って帰った。






「ただいま!」

「おかえり〜」

「ちょっと寝てくるね!」

「え?具合悪いの?」

「寝不足!勉強のしすぎで!」

うそ〜と言うお母さんの声も無視して、家に着くなり一目散に自分の部屋にこもった。


きっと精市はうちにやって来るに違いない。
駅でせっかく避けたのに、家で会ったら意味がない。

とにかく今日は、精市と普通に話ると思えないんだ。


制服を脱いで、ベッドに潜り込んだ。





このまま何も見えないフリをしてしまおうか