毎日毎日、飽きるほど寒い日が続いている。

寒い、と言うと「冬ですからしょうがないですよ」と柳生に言われるのにも、もう飽きた。

そんなことを考えながら、学校から駅までのろのろ歩く。
早く家に帰りたい。


「あーっさびぃ!!なぁ仁王!なんか食って帰ろうぜー!」

そう言っていっそうマフラーに顔を埋め込む丸井を、ドラニコフ見たいだなと思いながらぼんやり見ていた。


そしたらいつの間にか丸井行きつけのラーメン屋に連れ込まれていた。
席はいつものカウンター席。

まぁえぇじゃろう。
腹も減っとったし、寒さも限界だ。




注文したチャーシュー麺とギョウザが運ばれ、上機嫌で箸を付けた。





「ところでよー、もう名字には告白したのか?」


「……」

ラーメンをすする手が思わず止まった


「…まだなわけ?!おまえさー、名字のこと好っんぐう」


「声がでかい…!」

デリカシーのない丸井の口にギョウザを突っ込み、キョロキョロと店内を見渡した。

よかった…他に立海の生徒はいないな…



「……あっちぃー!俺の口が火傷でズタズタになったらどーすんだよ!」「ズタズタになれ」

こいつは内緒の話とかできんのじゃないだろうか




「でもよー、」

不機嫌そうに水を飲みながら丸井は言葉を続けた


「冗談抜きで、告白まではいかないにしても、デートくらいしといた方がいいんじゃねぇの?」


たしかに…
最近二人で遊びに行っていない…



「いい加減愛想つかされっぞ〜」

ギョウザ攻撃の熱がおさまったのか、また勢いよくラーメンをすすりだした。


俺はといえば、丸井の一理ある言葉に不覚にも頭を悩まされてしまい
なかなか箸が進まなかった。




その後もあまり話が頭に入ってこないまま丸井と分かれ
やっと家に到着した。



「なんじゃ、これ」

マフラーを外していると、ふと目にとまったのはテーブルの上の2枚のチケット


「今日新聞屋さんがくれたのよ。映画のタダ券。使ってもいいわよ」


そう言う母親の声に、カッと目が見開く。


これじゃ…………!




急いで階段を駆け上がり、自室にこもる。
手にはさっきのチケット。

どうやら駅前の映画館で使えるダダ券のようだ。
これなら自然に名字をデートに誘うことができる!


となれば、善は急げだ


急いでポケットから携帯を取り出した。



メールか、電話か…



迷った時に思い浮かぶのは、彼女の笑顔

そのとたん
声が聞きたくて、どうしようもなくなってしまった。




…迷ってる場合じゃない

ぐっと力をいれて、通話ボタンを押した。


数秒の無音の後に、プルルルと無機質な音が響く
いつもこの瞬間が一番緊張する。





『もしもし!』

「もしもし…あー…、今電話大丈夫か?」


『うん!平気。』


おちつけ、俺…!



「今週の日曜なんじゃけど。空いとらんか」


『えっとねー…、うん!何も予定ないけど。どうしたの?』



よし…!
いけ!いけ…!俺!


「映画のチケットがあるんじゃが…一緒に行かんか?」


『いいの?行きたい行きたい!』


「そっか。よかった…!」


心底ほっとした。
まだ愛想はつかされていないようだ。


それからは見たい映画の話から、部活の話に話題がうつり
会話が途切れることはなかった

映画に誘うまでは無意識に正座してしまっていた足を開放させて、ベッドに横になりながら
名字の話を聞いた。


心臓が高鳴るのに、安心する声

今、最高にだらしないふやけた表情をしているのが自分でもわかる。
…こんな顔、絶対にテニス部の連中には見られたくない


見られた姿を想像しただけでも背筋がぞわっとした



でも、そんなことは今どうでも良い。


名字の声を堪能するように、ゆっくりと目を閉じた。