今日は部活が休みなので
彼女である名前子と、帰りに映画でも見ようと約束をした。

授業が終わり、全速力で名前子のクラスへ迎えに行く


予定だった。






「すまん、名前子」

日直であることを忘れていた俺は、
日誌を書くことをすっかり忘れていたのだ。

早く帰りたい奴は、前もって今日の時間割等書けるところは先に書いているのだが
すっかり忘れていたため、今日の日誌はまだ真っ白

クラスメイトはとっくにみんな帰ってしまった

これでは映画の時間に間に合わない。


「いいよ。映画はいつでもいいし。今日は買い物しよ。リップ買いたいんだよね」

こういう大らかなところが、本当にありがたい。
普段部活に追われている俺のわがままを決して責めたりしない。

だからこそ、今日くらいは名前子の希望を叶えてやりたかったのに…

日誌を丸井に押し付けようとしたら
自分でやらなきゃだめ! と名前子に怒られてしまった。




「それに、私べつに映画がどうしても見たかったわけじゃないんだよね。雅治と2人でいられるなら、教室でもぜんぜん良いんだー」




ほら、
すぐそうやって可愛いことを言うじゃろ…


ゆっくり顔を上げて、向かいに座る名前子の顔を身ると
本当に嬉しそうに、俺の汚い字が並ぶ日誌を見ていた。


ここが教室であることを忘れてしまいそうなほどに
穏やかにゆっくり流れる時間

こういうのを、幸せというんだろう






「あ、名前子。まつげ抜けとる」

「え、うそショックー。どこ?」

「あー、違うそこじゃない」


自分では見えないため、頬のあたりをはらっている名前子の顔に
思わず手を伸ばした


右目のすぐ下

反射的に目を閉じる名前子


あ、
これはやばい

この構図はヤバイ



俺を信じきって
おとなしく目を閉じる彼女


まつげなんて、もうとっくにどこかへ落ちたのに
俺は名前子の頬から手を離すことができなかった


そうなれば向かうところはただひとつ

吸い込まれるように

彼女の唇へ