「ケーキ食べに行くよ」


「へ?」


日曜の朝
いきなりリビングのドアが開かれたと思うと、精市が立っていた。

まだ起きたてで髪がボサボサの私とは正反対で、すでにいつでも出かけられますといった感じだ。




なんでケーキ?
なんでいきなり?


何が何だかわからないけど、拒否権など私には無いようで
このままボーッとしてたらパジャマのまま連れ出されそうな雰囲気だったので
大人しく服を着替えた。






外は寒いだろうなと思っていたけど、太陽の光が当たる場所は
ポカポカと暖かいくらいだった。



「ねー!ケーキってどこで食べるの?」

「ケーキ屋」

「そりゃわかってるけどっ!どこにあるの?」

「歩いて10分くらいかな」


着いてみてのお楽しみとでも言いたげに、少しの情報しか教えてくれない。

何なんだろう。

冷たい空気で急に冷えた鼻を、手袋をした両手で包みながら
大人しくついて行くことにした。





「さ、着いたよ」

「わぁ…!」




立ち止まった場所にあったのは、なんともかわいいケーキ屋さんだった。


カランコロンとドアを開け、2人掛けの席につく。
木を少しだけ加工したようなテーブルとイスで、森の中にあっても不思議ではない雰囲気だ。
いかにも女の子が好きそうだなぁ。






「すごい!かわいいお店だね!どうやって見つけたの?」


「この前友達に連れられてね。ケーキもおいしかったよ」

そう言いながら、精市はメニューを広げてくれた。





友達って…
女の子、かな




ふと気になって、今までの楽しかった気分が一瞬で姿を隠してしまった。


だってこんなかわいいお店、男の子が好んで行かないだろうし


絶対女の子と一緒に来たんだ…!


考えれば考えるほど、口がへの字に曲がっていく。





「どうしたの?」

「…なにが」


「そんな顔させるために連れてきたんじゃないんだけど」

精市が自分の口をトントンと指差しながら言った。

こっちの不機嫌が伝わったのか、精市も少し仏頂面だ。






「…友達って、かわいいの?」


「え?……まぁ、どちらかと言えばかわいい感じだと思うけど…」




かわいいんだ!
ていうか精市が女の子のことかわいいって言うの初めて聞いたかも…

うわー…
自分で聞いたくせに。
聞かなきゃよかった。








「ぷ…」

うな垂れる私とは正反対に、精市は何か分かったようにクスクス笑出した。



なによ
こっちは笑える気分じゃないよ




「名前子、何か勘違いしてるだろ」


「なにが…」



「友達って、男なんだけど」



「え?……えぇ?」


男?


「う…うそだー!」

「ほんとだよ。ブン太っていう、写真見せたことあるだろ?」



ブン太って…あの髪の赤い…?

たしかにかっこいいというよりかわいい系だった気がするけど!


でも…
それじゃぁ…!



私めちゃくちゃ恥ずかしくない…?

勝手に勘違いしてヤキモチやいて!
わーもう今すぐ逃げ出したい!

顔がカーッと赤くなるのを感じて、収まれ収まれと思うけど
そんな思いと反比例するように、どんどん熱が高くなる。

そんな私を見て、精市はますます上機嫌だし…もう最悪だ



「笑いすぎ!」

少し睨みながら
冷たい水の入ったコップを手に持った。

水を口に含むと、だんだん頭も冷えてきた。


最初から冷静でいれば、こんな恥ずかしいヤキモチやかずにすんだのに…………………あれ?






私今、ヤキモチって…?



それってなんか…
まるで私が精市を好きみたいじゃ…







「赤くしたり真面目な顔したり忙しいとこ悪いけど、ケーキきたよ」



そう言われてあらためて精市の顔を見ると、
再びぐんぐん熱を持つ私の顔




「今度はなに。」

「なんでもない!」


やけになってケーキをむしゃむしゃと食べ出した。






「おいしい?」

「うん。すっごくおいしい。」


だんだん落ち着いてきたようで、ゆっくりケーキを味わえるようになった。
タルトはサクサクで、カスタードクリームからはしっかりバニラの味がして
ほんとにおいしい。



「よかった。この前ブン太に無理矢理連れてこられたんだけど、食べてみたらすごくおいしくてさ。名前子にも食べさせてあげたいと思ったんだよね」




また。
この人はほんとうに照れることをさらりという。


でも、素直に嬉しかった。
その場にいなくても、私のことを考えてくれてるんだ

あぁ、また恥ずかしくなってきた。



そんな気持ちをごまかすように、またケーキをもくもくと食べだした。





でも、気付き始めたこの気持ちは
ごまかせないような気がした。