2時間目が終わった後の短い休み時間中に
携帯でメールをぽちぽちうっていると、隣の席の子の話声がうっすら聞こえてきた。


「携帯のアドレス帳、0番目って誰が入ってる?」

「え〜?0とかあったっけ?」

「あるよー。なんかね、アドレス帳の0番目に好きな人のアドレス登録してたら両思いになれるんだってー」



そうなんだ…
まぁ、いわゆるおまじないってやつなんだろうけど…


そんなものがあるのか…



少し気になって、自分の携帯のアドレス帳をこっそり開いてみた。



あぁ、やっぱり


アドレス帳の0番目にはよーく見慣れた名前がどしっと構えていた。



幸村 精市



そういえば、そうだったかなぁと
携帯電話を始めて買ってもらった日のことを思い出した。



もう2年くらい前だろうか
私が携帯を買ってもらったのは、精市より遅かった。


お母さん携帯買って!
まだ早いでしょ。いらないわよ。

だってみんな持ってるよ?!私が仲間はずれになってもいいの?

みんなって誰よ。
…えっと、みっちゃんと…のんちゃんと…えっと…

みんなって2人じゃない。

というよくある不毛なやり取りを経て約3ヶ月。

やっとお許しがでて買ってもらった直後の薄ピンクの携帯を握りしめて、
すぐに向かったのは精市のところだった。


「見てー!精市!やっと買ってもらったんだよー!」

漫画なら、どーん!と音が出そうな勢いで精市の顔の前に携帯を突き出した。


「あ、ついに買ってもらったんだ。よかったね」

「うん!ねぇ、なんか可愛い画像とかあったらちょーだい!プリンセスとかの」

「俺の携帯にそんなの入ってるわけないだろ。」


そう言って私の携帯を取ると、カチカチと操作を進めた。
持ち主の私よりも手慣れた仕草だ。



「はい、俺のアドレスと番号登録しといたから」


「そんなことより可愛い画像ー!」


その後、顔をしかめた精市に
テニス部の友達が書いたとう『心頭滅却』と書かれた書を勝手に待ち受けにされて
しばらく変え方がわからなかったのも今となっては良い思い出だ。



でも、そうか。

私の携帯に一番に登録されたのは、精市なんだ。


あの頃は何も感じなかったのに
その事実に胸が高鳴った。



あの頃とは違う。
何かが確実に違う。


名前を見るだけで、こんなに鼓動が速くなるなんて

名前を見るだけで、こんなに温かな、幸せな気持ちになるなんて