今日の俺は機嫌が良い。
いつもなら授業が終わって、ただただ部活へ向かう日々。

しかし今日は違ったのだ。

これぞ青春といえる、突然の出来事。



このことを早く丸井先輩や仁王先輩に自慢したくて
走って部室に向かった。



「ちーっす!」

勢いよく部室のドアを開けた。が、お目当ての丸井先輩も仁王先輩もいない。


「やけに元気だね、赤也」

「ドアを壊さないようにな。」


俺の予想に反して、部室にいるのは幸村部長と柳先輩だけだった。
真田副部長と柳生先輩がいないということは、あの2人は委員会なのだろう。


「何か良いことでもあったのかい?」

「へへ〜実はそうなんすよ!」

さすが幸村部長!目敏い。


「二年の女子に告白されたそうじゃないか。良いこととはそのことだろう。」


柳先輩にいたっては怖いくらい詳しい…


「へぇ、どんな子なの?」


「それが、なかなかかわいくて有名な子でー!」

思わず幸村部長と柳先輩が座っている場所に駆けよった。


「赤也もその子が好きだったの?」

「いや、今までは別になんとも思ってなかったんですけどねー。いざ告白されるとなんかかわいいし好きかもとか思っちゃって!」


「ふぅん。まぁ付き合ってから好きになるっていうのもあるだろうしね。」


「もう返事はしたのか?」

「まだっす!」


そこまで話したところでなんとなく満足し、自分のロッカーを開けた。

鼻歌でも歌いそうな雰囲気でネクタイをゆるめる。



「いや〜、恋って楽しいことばっかりなんすね〜!」


思わずこぼれた言葉

仁王先輩や丸井先輩に聞かれていたら、調子のんな!とか言われてただろう


でも、幸村部長は違った




「そうかな…」


決して大きな声ではないのに、なぜか重みのある
ポツリとこぼされた幸村部長の声に思わず振り返った。



「苦しかったり、もどかしかったり。なかなか辛いことも多いと思うよ。」


でもどんなに苦しくても、最後は楽しいものだと思うけどね


そう言って笑った部長の周りは
太陽の光がふわりと当たっていて
光で浮かび上がる空気中の細かい粒が、より神秘的な、絵本のような雰囲気を作り上げていた。




きっと幸村部長には
苦しくなったりもどかしくなったりするほど、想う人がいるんだ。
そしてその恋は、まだ叶っていない…?その優しいのに真剣さを含んだ眼差しは
さっき俺に告白してくれた女の子のものによく似ていた。



なんだろう

心に何か引っかかりを感じて、ロッカーの扉に備え付けてある鏡を覗いた。









あぁ…

そうか


違うんだ。





俺のこの気持ちは、恋じゃないんだ
きっと



ただ少し、浮かれていただけなんだ。








「よーっし!いっちばーん!」



その時、勢いよくドアが開き丸井先輩と仁王先輩が入ってきた。



「どうやらビリは名字のようじゃの」


「あ…あんたら2人にっ…わたしが勝てるわけ、ないでしょ!」

そして最後にヨロヨロになった名字先輩が肩で息をしながら入ってきた


「ま、名字が俺と仁王にジュース奢るってことで!」

「やだー!私は賭けには参加しないって言ったでしょ!」


「走った時点で参加したも同然じゃ」

「それはあんたらが勝手に走り出すからっ」


3人でまだワーワー騒いでいる。

俺や柳先輩、幸村部長は何だか蚊帳の外だ。

なんだかんだ言って、この3人仲いいよなぁ……あ?



「ふーん。じゃぁ俺も買ってもらおうかな」

「いだだだっ」

そんな置いてけぼり状態をやぶるように、幸村部長は名字先輩の頭にわしゃわしゃと触れた。








やっぱり、あの告白は断ろう
このまま付き合っても結局あの子を傷付ける結果になりかねない。



先輩達の声を遠くに聞きながら
さっきの女の子や、幸村部長を頭に浮かべた。



俺もあんな風に、無意識に顔に出てしまうほどに
誰かに片思いする日がくるんだろうか。

自分の未知の感情に
戸惑うだろうなと思いつつも、
そんな日はいつだろうと
少しわくわくしている自分がいた。