「楽しい楽しい海原祭!ね、行こ!」


朝、教室に入り自分の席に着くやいなや
友達のみっちゃんがやってきた。


「海原祭って…立海の学祭?」

「もちろん!ねー行こ!」

海原祭ねぇ…
行きたい気もするけど…


ふと、前に行ったカフェでたまたま聴いてしまった話を思い出した。


幸村くんが入れこんでる幼なじみがいる

どうやらそんな噂が立海の女の子の間であるようなのだ。


みっちゃんのこのキラキラした目…
恐らく立海テニス部レギュラーを見る!というのが目的だろう。
長い付き合いだから、親友の考えることは手にとるようにわかる。


「行ってもいいけど…精市には会いにいかないよ」


「えー!名前子をきっかけに幸村くん達と話せるかもっていうのがメインなのにぃ!」


やっぱりな!
ほんとにテニス部好きなんだから



「なんで幸村くんに会いたくないの?」


だって…私と精市はただの幼なじみなのに誤解されてるみたいだし、
立海のかわいい女の子達に精市と一緒にいるとこみられて『なんだ、たいしたことない』とか思われたりとかしたら…

あ、ダメだ。

最近、精市と立海の女の子のことを考えると
ちくっと心臓が痛くなる。

なんでなのか、どうしたら治るのか、
わからないから
あんまりこの事は考えたくないんだ。






「まぁいっか。いいよそれで。幸村くん達は遠くから見るだけで我慢するわ。じゃ、行くのは決定ね!」


みっちゃんも私の表情から何かを察してくれたのか、私の要望を受け入れてくれた。
さすが親友





海原祭に行くこと
べつに精市に言わなくてもいいよね


海原祭は行くけど精市のところは行かないからってわざわざ言うのも変だし


立海かぁ
普段精市がどんな学校生活送ってるか気になってはいたから、ちょっと楽しみではあるんだよね。











海原祭当時になり、みっちゃんの家に向かった


「さ!これに着替えて!」

そう言うみっちゃんの手には小さな紙袋


「これって…立海のネクタイとスカート?!」

「そう!親戚が立海の卒業生だからかりてきたんだ〜」


「でも…なんでわざわざ…」

「目立ちたくないってなら、立海の制服着て紛れるのがいちばんでしょ!」


「とか言って…着たいだけでょ」

「あ、バレた?ネクタイつけてみたかったんだよねぇ〜」

私たちの学校はリボンだもんね


とりあえず言われるがまま立海の制服に袖を通した。
なんか、他校の制服着るってちょっと楽しいかも。


いよいよ立海に出発だ。







電車に乗り、目的の駅で降りると
学生でいっぱいだった。
いろんな学校の制服の子がいるなぁ。


「めちゃくちゃ楽しみになってきた!」

みっちゃんは隣で武者震いをしている。楽しそうで何よりだ。




立海に着くと、すっかりお祭りムードで
色鮮やかな飾りでいっぱいの校門が迎えてくれた。


「すっごいね!ね、まずどこから行くの?」

「3年の教室をA組から順番にまわるに決まってるでしょ!行くよ!」


みっちゃんに腕をつかまれ、引きずられるようなかたちで校舎に向かった。
なんて迷いのない足取り…
前にも潜入したことあるのか?と思わせるほどだ。





3年の教室がある校舎に着くと、それはそれはすごい人の多さだった。


まずはA組。
みんな並びながら、店内である教室を携帯で撮影してる。


噂通り、テニス部の人はすごい人気なんだなぁ…


精市は確かC組だったよね…
すぐそこじゃないか…

見つからないかひやひやする。
別にやましいことはないんだけど…
なんで黙って海原祭に来たのかと聞かれても、うまく理由を話せないし。
私だってわからないんだもん。



「よし!次はB組!」

みっちゃんは満足できる写真が撮れたようで、意気揚々と次のクラスへ向かい、人混みへつっこんで行った。
強い。


どうしようかな、と思いつつ、先にC組をドアの影からこっそり覗いてみると、精市がいた。
屋上庭園で育てたハーブでお菓子やハーブティーを作ると言ってたな…
教室から良い香りがふわりと香った。

精市はウェイターもしているらしく、白いワイシャツに黒の長いエプロンをしている。
おしゃれなカフェの店員さんみたいだ。
精市を見る女性客はみんなうっとりするような目をしていて…
ハーブティーが運ばれると、一緒に写真を撮ったりしている。


普段からこんなふうに
精市は女の子からの熱い視線を受けているんだろうか



ちくり



あぁ、まただ。
原因不明の痛み。


考えるのはもうやめようと、みっちゃんを探した。



「おまたせ名前子!次行こ!」

「…うんっ」



精市のいる教室に背を向けて、
みっちゃんに駆けよった。








「名前子…?」


「どうしたの?幸村くん」

「いや、知り合いの声が聞こえた気がしてね。気のせいかな…」





楽しい楽しい海原祭

お楽しみはこれから。