痛い

体は元気なのに痛い部分が気になって、起き上がる気にもなれない。学校から家に帰ってからごろりと寝転んだままだ。


「やぁ名前子。なんだ、口内炎で苦しんでるって聞いたけど元気そうじゃない」

「精市…」

リビングのドアからこちらを見下ろしているのは、幼なじみの精市だ。
今帰ってきたところなのだろう。まだ制服姿だ。


「元気じゃないよー3つもできちゃってさー。このとおり痛くて起き上がる気しないんだから」


「だってゴロゴロ寝てるのはいつものことじゃないか」


…確かに


「でも痛いものは痛いの!」


お茶を飲んでもしみるし…というか息してるだけで痛い
絆創膏を貼りたいくらいだ。


「名前子、夜ごはん何食べたい?」

精市と話していると、キッチンからお母さんがやってきた


「あれ、ごはんまだできてないの?」

いつもならこの時間にはごはんできてるのに

「今日ちょっとお友達の家に行ってたのよ」

「ふーん」

夜ごはんか…
なるべく口内炎にしみないものがいいなぁ




「しょうが焼きなんてどうです?」

「あら、いいわね精市くん。簡単だし」

「しみるんだけど」

お母さんは精市が来ると、いつもごきげんだ。
ちょっと顔が良いからって…!

「それかキムチ鍋とか」

「あら、それも良いわね。今日は冷えるし」

「すっごいしみるんだけど!!」


わざと言ってるでしょ精市のヤツ!


「よし、ちょうどお野菜もたくさんあるし、今日はキムチ鍋にしましょう!ありがとうね、精市くん」

「いえ」

お母さん精市に夢中で私の意見聞いてくれないし!
ご機嫌に鼻歌うたいながらキッチン戻ってっちゃった!
マダムキラーな笑顔にすっかり騙されてるよ…



「キムチ鍋って!むちゃくちゃ痛そうなんだけど!どうしてくれんのよー!」


「おいしいじゃないか」

「どうせ精市は食べないでしょ!」

1回くらい殴ってやろうと両手で攻撃したけど、全て片手ではらわれてしまった。
悔しい……!


「俺もそろそろ夕飯の時間だから帰るよ」

「かえれかえれ!」


精市は最後まで笑顔で、おじゃましました と帰っていった。



何しに来たのよ…




「名前子、ちょっと手伝ってくれる」

「…はいはい」

キッチンからお母さんに呼ばれ、しぶしぶ立ち上がった。
「あれ、なにこれーかわいい」
蜂蜜だ!
ピンクの花が描かれた小型のチューブに入ってる。
おしゃれー!


「あ、それさっき精市くんが帰り際に名前子にってくれたのよ」

「え?」


「はちみつは殺菌効果があるから口内炎に塗ったら効くって聞いたことがあるって」


精市が…
ただ嫌がらせに来ただけだと思ってたのに…


チューブのフタを開けて、少し舐めると
とても優しい甘さが口に広がった。












(いっいだだだだだ!しみる!はちみつ塗ったらすっごいしみる!なにこれー痛いー!)

(あ、精市からメール…『蜂蜜もけっこうしみるでしょ^^』…やっぱりただの嫌がらせ…?)