やばい
これは…嫌な予感がする…


学校帰り、友達と別れて
1人で歩いていると
雲行きが怪しくなってきた。

雲が黒くて分厚い


傘を持っていないので、少し歩く速度を速めた。


でもこの感じは…雨だけではすまない気がする





家に着くと同時に、ザーッとすごい勢いで雨が降ってきた。


今日はお父さんは仕事で遅いし、お母さんも出掛けると言っていたので
家には誰もいない。


急いで階段を駆け上り、ベランダに干してあった洗濯物を入れ、やっと一息つくことができた。



ゴロゴロ…




やっぱり
予想通りだ。

雨だけでなく雷も鳴りだした。

最悪…

特別、雷が苦手というわけではないけど…


1人の時に鳴ると、やっぱり怖い。


部屋中の、必要のない電気もつけ、見るわけでもなくテレビをつける
静かだと余計に怖いしね

寒くもないのにベッドから掛け布団を持ってきて、くるまりながらお茶を飲んだ。


早く雷どっかいかないかな
お母さん早く帰ってきたらいいのに

そんなことを思いながら、自然と布団を握る手に力が入るのを感じた。




ピンポーン




誰だこんな時に…
お母さんだったらチャイムなんて鳴らさないだろうし



居留守を使いたいけど電気つけちゃってるし…いるのバレバレだし…
仕方なく受話器を手に取った。


「はい…」


『俺。開けて』


受話器越しの聞き慣れた声に、縮こまっていた心が、すぅっと温かくなるのを感じた



「…オレオレ詐欺の方ですか」
ほんと素直じゃないなぁ私…
嬉しいくせに、それがバレるのが恥ずかしくって
ついつい憎たらしいことを言ってしまう



『開けろ』


「すいませんでした」



最初から素直に開けろっつーの
自分でもそう思う。



鍵を開け、ドアを開けると
聞き慣れた声の主
精市が立っていた。



「おじゃましまーす」

「いっ」

開けると同時にデコを一発軽く叩かれ、
精市はずんずんと、私がさっきまでいた居間に入っていった。




「名前子、まだ雷なんか怖いわけ?」

精市が、いらない部分の電気を消していく


「べつに…一人じゃなかったら平気だし…」


「どうせ俺が来るまでその布団にくるまってたんだろ。こんなに無駄に電気もつけて」



「うるさ…わぁ!」


急にバチッと音がしたと思うと、テレビも電気も消えて
部屋が真っ暗になってしまった


「なに!なにこれ!暗い!」


「停電だね。雷落ちたかな?」

「何でそんな冷静なの!!」

精市はすでに座っていて、私のお茶を飲んでいる


「焦ったてしょうがないだろ。きっとすぐ元にもどるよ。」

「でもっ…」

雷で停電なんて、今までめったになかったし…


「いいから」

ぐいっと腕を引っ張られ、精市の胸に飛び込むようなかたちになってしまった


「ちょっ…なにすっ」
「いいからいいから」

焦る私をよそに、精市は私を抱きしめて座ったまま
布団にくるまった



何だこの状態は…!
恥ずかしい!

近すぎる!

少し距離を置こうと暴れてみるけど、精市のバカ力にはかなわない。

しばらくがんばったけど、すぐに力つきて
くたりと精市に体をあずけた。

「よしよし」

何がよしよしだ…
私恥ずかしいってば!




でも




恥ずかしいはずなのに
なんだかあったかくて、すごく安心する

雷と停電っていう最悪の状況なのに
精市と布団に包まれて、このまま寝てしまいそうなほどだ。



「お前小さくなったね」

「…精市が勝手に大きくなっちゃったんでしょ」
昔は同じ身長だったのに
ぐんぐん大きくなっちゃって…

「でも抱き心地は良くなったね」

ふふっと笑いながら、二の腕をふにふにしてきたので
ボフッと叩いてやった


それでも精市は笑ってる

暗いし抱きしめられてるしで
顔は見えないけど、雰囲気でわかる。

精市の顎の下に、私の頭がぴったり収まる

背中に回された精市の手が、子どもをあやすように
ポン、ポンと心地よいリズムで揺れる



あぁ…本当に…寝そう………



「寝てもいいよ」

耳元で、内緒話をするような、優しい声が聞こえる


「……せいいち」

「ん?」


「なんで…うちにきて…くれたの……?」

意識を手放しそうになりながら、さっきから気になっていたことを聞いてみた


でも…ダメだ…
もう…目を開けてられない



「怖がりな名前子が心配だったからだよ」




その瞬間、すぅ…と私の意識は夢の中へとんでいった












そしてその夢の中で

大好きだからだよ、と

優しい声が聞こえた気がした