「やったー!」

部活が始まる前に、部室でパン食ってたら
赤也がものすごい満面の笑みでやってきた


「どーしたんだよ。テンションたけーな」


「ついにやったんすよ丸井先輩!」

「だから何が」




「名前子先輩のメアド、教えてもらいました!!」


「おぉ、マジかよ!」

名前子は俺と同じクラスであり、うまい食い物について熱く語り合える仲だ。
俺と話してる名前子を見て、赤也は惚れてしまったらしい。
それ以来、とっととメアドくらい聞けよと急かし続けてはや4ヶ月
今日ようやく聞けたらしい。



「名前子先輩急いでたみたいなんで、まだ俺のアドレスは送ってないんすよ」

どうやら赤外線で先に名前子のアドレスを送ってもらったらしい。

「へぇ。じゃあ今からメール送れよ。俺が添削してやるよ」

なんかおもしろいことになってきた

赤也は上機嫌で、メールの新規作成画面を開いている。



「えーっと…書き出しが重要っすよね…」

「その前に件名に名前書いとけよ。迷惑メールだと思われて削除されたらおしまいだろ」


「あ、そっすね!…『切原赤也です』と。…アドレスださいとか思われないっすよね……?」

「あぁ?大丈夫だろ。そんなんいちいち見ねぇって」

「ですよね」

「そんなに心配なら、AKYとかに変えるか?」

「…AKBじゃないんすから」


「ほら早く本文!部活始まっちまうぞ」

「えーっと…『はじめまして』…」

「はじめましてじゃないだろ。会って話してんだから」

「やー、なんかメールが初めてなんで、何となく」

「『こんにちは』あたりにしとけよ」


「うぃーっす。『こんにちわ』と」

「ばっか!こんにち『わ』じゃねぇよ『は』だよ『は』!」


「あー、そっかそっか」


…だいぶテンパってんなこいつ




「てか丸井先輩が横でワーワー言うから気が散るんすよ!」


「あ、なにぃ?コイツ!」

「いてっ!暴力反対!」

生意気なことを言いやがるので、この口かと頬をつねってやった。



しかしまぁ…見られてたらやりにくいってのは一理あるな。少し放っておいてやるか。

少し離れた所に座り直し、赤也を観察することにした。


両手で携帯を持ち、ゆっくりボタンを押している。
相当考えているのだろう。
唇を噛みっぱなしだ。

でも何だか嬉しそうで、目がキラキラしている。


4ヶ月も我慢してたんだもんなぁ…

よかったな、と思ってしまうのは長男の性だろうか












「これでどーっすか!」

「どれどれ…」


イスから立ち上がり、メールができたらしい赤也の側へ向かう


「なになに…『こんにちは。切原です。よろしくお願いします!』…」


「どっすか?」

「う〜ん…これじゃぁメール続かねぇんじゃねーか?」


「えっ!!」

「相手が返しやすいメールを考えるんだよ。疑問系で終わらせるのが理想だな!」


「疑問系…?」

「名前子が食いつきそうな話題も入れること」

「食いつきそうな話…?」


さっきの浮かれた顔はどこへやら
赤也は頭を抱えてしまった

あー、手のかかるやつ…




「例えばだなー、『俺もケーキ好きなんすけど、名前子先輩のおすすめの店ありますかー?』とか」

「なるほど!」

「これならうまいこといけば、デートの約束までこぎつけられっかもしれねーだろぃ」


「なるほど!!さすがっす丸井先輩!」


早速さっきのメールに、嬉しそうに文章を付け加えだした


「できたっす!」

「どれ………うん、良いんじゃねぇか」

ほとんど俺が考えたようなもんだけど


「よーし!送信!」

赤也は右手を高く上げて、勢いよく送信ボタンを押した。














「丸井先輩!名前子先輩から返信きてるっす!」

練習が終わるなり、ダッシュで部室に戻った赤也が
嬉しそうに携帯を握って走ってきた。

メールを送信した後すぐに練習が始まっちまったからな。
俺もどんな返事がくるか気になってたけど
赤也なんか気が気じゃなかったみたいだ
あたふたする赤也を思い出してニヤリと笑いがこぼれた



「じゃあ、開きますよ」

おりゃっと赤也が真ん中のボタンを押した






Frm 名字名前子
Sub (non titie)
____________
メールありがとう!
アドレス登録したよー

切原くんもケーキ好きなん
だね!私のおすすめは、
『アンリ』っていうお店か
な。ちょっとわかりにくい
場所だから、今度一緒に行
こう♪








「…やった」「おー!」

「やったっすよお!丸井せんぱーい!!」


なんかスムーズにいったな…


赤也は周りに花を飛ばしそうな勢いで携帯をカチカチいじっている。
あ、ちゃっかり保護してやがる。

そんな雰囲気に影響されて俺まで気分がよくなっちまう

幸せそうなやつ



「こりゃ丸井先輩より先に、俺が彼女できちゃうかもっすね〜」



…………。



「いてっ」


前言撤回

勢いよく振りかぶって
スパンと頭をはたいてやった