今日は学校帰りに友達とカフェにやってきた。
ここはショートケーキが有名で知る人ぞ知るというカフェらしい。
前から来たかったお店だ

木を基調とした店内は、太陽の光でいっぱいで、白いカーテンが揺れている。
落ち着いた雰囲気に癒やされる内装だ。


「名前子、何頼む?」

「うーん、イチゴタルトも捨てがたいけど…やっぱイチゴのショートケーキかな」
有名だし
初めて来たし、最初はベーシックなものを頼んどこうかな。


「だよね。あたしもショートケーキにしよ」


ちょうど決まった頃に店員さんがやってきてくれたので、注文はスムーズに終わり
水を飲もうと手をかけた時だった


「あーん!今日も幸村くんに断られちゃった〜」


隣のテーブルの子達から、聞き慣れた名前が聞こえて、水を持つ手が止まった。

ちらっと隣を見ると、立海の制服を着た2人組のかわいい女の子だ。

幸村くんて…精市のこと、だろうか

まさかと思いつつも幼なじみの精市を思い浮かべながら、2人の話にこっそり聞き耳をたてた


「幸村くんに遊びに行こうよって誘っても絶対断られるんだ〜やっぱ脈ナシかなぁ〜」

「忙しいんじゃない?なんたってあのテニス部の部長様だよー?」


やっぱり精市のことだ…


「それもそうだけどー…やっぱあの噂ほんとなのかなぁ」


噂…?
はやる気持ちを抑えようと、いつまでも握ったままだったコップに口をつけた


「あぁ、あの幸村くんが入れ込んでる女の子がいるって話?」

「それ。あの学校一の美少女に好意もたれてもまったく相手にしなかった幸村くんがだよ?!噂じゃ手繋いで歩いてたとか聞くし…」


「あー、急いで帰る日は大抵その子と会ってるの見たって聞くね。すっっごく楽しそうだって。幸村くんにそこまでさせられる子ってどんな子なんだろ」


なんだそれ
知らないことばかりだ…
精市とはすごく仲良いつもりでいたのに…

そんな女の子、知らない


なんか
いやだな…








「噂じゃ隣に住んでる幼なじみって聞いたよ」


ぶっ

「ちょっと!名前子大丈夫?!」

「…っ大丈夫。かろうじて口からは出てない」


隣に住んでる幼なじみ…?


わたし?!


でもそれが私のことなら、その噂はおかしいよ
精市が入れ込んでるって…そんなことは、ない
いっつも呆れたような目でバカにされてるし


「あーぁ、私も幸村くんと幼なじみに生まれたかったなぁ〜」

「だよね〜幼なじみってだけで仲良くなれるもんね〜。あ、ケーキきたよ!」


そこで話は終わってしまったけれど、
彼女達の話はいつまでも私の頭の中をぐるぐる回って離れてくれない






『幼なじみってだけで仲良くなれるもんね〜』


本当にそうだ

精市は顔も頭もテニスもずば抜けている
私みたいな平凡なやつ
幼なじみじゃなかったら、きっと一生話すこともなかっただろう。


改めて感じた彼と自分の差に心が沈んだ

なんでこんなに痛いんだろう







「お帰り名前子。遅かったね」

「…ただいま」

そんな私の気もしらず、家に帰ると精市はのんきに庭の花に水をあげていた



「…何かあった?」


「べつに…」
目ざとい
感情はあまり顔に出ないタイプなのに、精市にはすぐバレてしまうな


「嘘つくなよ。名前子はすぐ顔に出るんだから。しかも嘘ついてる時は絶対目合わせないし」


「えっうそ!私自分のことポーカフェイスだと思ってたのに!」


「ポーカフェイスに謝った方がいいよ、それ」


うわー…
ショックだあ
体の力が抜けて、その場にしゃがみこんだ
制服が汚れるからもちろんお尻はつけないけど



「で?何があったの」


優しいようで力強い声
もう言うしかないな

しゃがんで俯いたまま、ポツリ、ポツリと呟く


「……私と精市ってさ、幼なじみだから仲いいんだろうなって」

顔も頭もレベルが違う


「もし全然違う場所に生まれてたら、きっと…一生話すこともなかったんだろうなって」





しばらくの沈黙…
精市は、呆れてしまっただろうか



「……そういうこと」

沈黙を破り、溜め息まじりに精市が声を出した


「名前子、こっち向いて」



いやだ
何か情けなくて精市の顔見れない




「もー…」

急に声が近くなったと思ったら、精市の手が私の両頬に触れた


「いだっ」


首が折れる…!
そのまま無理やり手で顔を上げられた


しゃがんだ精市に両頬を手で挟まれてる私
なんだこの図は



「ばか力っ!ちょっとは手加減し…」
「バカはお前」


「なっ」
何で私が…


「幼なじみだからってだけで俺が仲良くすると思う?」



「…思わない」
精市は心をゆるした人にしか本当の自分を見せない


「嫌いな奴だったら幼なじみだろうが何だろうが、ほっておくよ」


確かに…



「それに…」


「お前がずっと遠い場所に生まれていたとしても、俺は絶対名前子を探しだすよ」


……何それ

うわ…


急に恥ずかしくなってきたっ…

目をそらしたいのに、顔を固定されてるせいで
精市から目が離せない


真剣な顔…


頬がどんどん熱くなる


「で、こんな風にいじめる」


「いだいっ」


急にいたずらな笑顔になったかと思うと、頬をぐにぃっと引っ張られた

痛い

痛いのに、嬉しいや

頬を引っ張られたまま、思わず笑ってしまった


一瞬、精市が目を見開いた
頬をつねる手がゆるんで
軽く撫でられたかと思うと

今度は額に柔らかい感触




「そろそろ暗くなってきたし、家に入ろうか」


私は額を抑えて呆然とするしかできなかった。







今のは…


おでこにチュー


「わぁっ…!」


認識したとたん恥ずかしくてどうしようもなくなって、走って家に入った

ドアをバタンと閉めて、玄関にへたり込む


なんだったの今の…

なんだったの今の!!ダメだ
気にしちゃダメ
精市の思うツボだ!

そうだよ、いつもの精市のいたずらに決まってる!



そう自分に言い聞かせても、
しばらくその場から動けそうになかった。










(俺やりすぎちゃったかなぁ?まぁたまにはいいよね。)