ガタンゴトンと電車の揺れに流されるまま、体が振動する。

今日は授業が昼までだったので、外はまだまだ明るい。

空いた電車に乗りたいため、立海の生徒がほとんど帰ったであろう時間まで、隣に座る彼女、名前子と少し時間を潰してからこの電車に乗り込んだ。
その甲斐あって、同じ車両にはほとんど人がいない。

静かな心地良い時間。


名前子は今、すーすーと小さな寝息をたてている。

窓から差し込むやわらかい光と電車の揺れで眠くなってしまったのだろう。

俺の肩に頭を乗せて、気持ちよさそうに寝ている。


首に名前子の髪が当たって、くすぐったいようなヨコシマな気持ちが芽生えそうになったりするが
俺が動くと、名前子が起きてしまうかもしれん。
それは避けたい。
目が覚めてしまえば、彼女のことだ。恥ずかしがってもたれてくれなくなるだろう。


ゆっくり顔を動かして、寝顔を堪能する。

長い長いと思っていたまつげは、やっぱり長くて
唇を見ているだけであの感触が思い浮かび、ついついこの場で味わいたくなる衝動にかられる。


いかんいかん

いくら空いているとはいえ、ここは電車の中

我慢じゃ





そうやって自分をおさえても、すぐに物足りなくなる。


…もう少し触れてもいいだろう

そう思い、名前子の手をそっと握った。

名前子の指と指の間に、自分の指を滑り込ませる。

お互いの関節が、まるでパズルのピースのようにぴったりはまった。
手の大きさは全然違うのに、パチリと気持ちの良い音が鳴りそうなほどぴったりだ。

この瞬間、いつも俺は嬉しくなる。
生まれる前からこうして名前子と手を繋ぐのが俺の役目と決まっていたような気がするから。


繋いだ手からじんわり伝わる名前子の体温に、俺の瞼も重たくなってきた。


電車が走る、ガタンゴトンという音がだんだん遠くなるのを感じる。


このまま…降りる駅も、終点さえも超えて
この心地良い空間に2人でいられればいいのにと、願いながら目を閉じた。