窓の外は嫌みなくらいの青空

せっかくの昼休みだが、昼飯を食うと何もやる気が起こらなくて、机に突っ伏した。

あつい…


「はらへった〜」

また丸井が何か呟いている


「なぁ仁王、クリームぱんとあんぱん、どっちがいいと思う?」


まだ食うんか…さっき昼飯食ったとこじゃろ…


「でもこれ以上食ったらまた幸村くんに怒られっかなー!」


いっそのこと怒られてしまえ。

「お前さぁ、人が相談してんだからちょっとはアドバイスとかしろよ」



「……イヤ」
相談て…そんな大層なものか?


「確かに暑いけどさー、仁王は弱りすぎだよな」

俺の隣に座りながら、丸井がぱたぱたとうちわを仰いでいた。

どうせなら俺にも風があたるように仰げ
と思ったが、口を開くのも億劫なので黙り込む。


「もういっそこの髪切っちまえよ」
そう言いながら俺のしっぽのような後ろ髪を掴んできた


イラッ


なんかイラッとした
なんかイラッとした!


普段ならさほど気にせんが…
暑さのせいじゃな

無言でブンっと頭を振り、丸井の手から髪を解放させる


「…髪を触られるんは嫌いじゃ」

「おーこわぁ」またお互い無言になり、丸井がうちわを仰ぐ音だけが聞こえる。



そのうちパタパタとかわいい足音が聞こえてきた




これは…名前子の足音!

バッと顔を上げると、何やら難しい顔をしながら雑誌を持っている。



「名前子どーしたんだ?」
皺がいってるぞ と丸井が眉間を指差しながら言った。



「これ」
そう言って名前子は雑誌をパラパラ開いた



「かんたん編み込みヘアアレンジ…?」

その雑誌には、編み込みを取り入れた髪型をしたモデルの写真が載っていた


「そう!この髪型かわいいからやってみたいんだけど…編み込みが難しくって」


「かんたんって書いてあるぞ」

「ところが簡単じゃないのよねぇこれが」

名前子は一層眉間の皺を増やし、口を尖らせながら言った


かわいい…



「自分の髪でやるから難しいんじゃないか?一回誰か他の奴の髪で練習してみたらどうじゃ」

「あー、なるほどねぇ!人の髪でやれば編み込みの仕組みも分かりやすそうだしね」


「慣れた頃に自分の髪で挑戦したらうまくいくじゃろ」


「そうだね!いやー、仁王って相談相手にピッタリだね」名前子の眉間から皺がなくなり、明るい笑顔になった。


拗ねたような顔もかわいかったが、やっぱり笑顔が一番だ。


丸井が呆れた目をして俺を見ているが、気が付かないフリをしよう。




「じゃあ仁王、髪の毛触らしてよ」


「は?」
俺の?


「あーダメダメ!仁王は髪触られんの嫌…いってぇっ!」


「俺の髪でいいなら」
丸井の足をぎゅうっと踏んだ後、俺は自分の髪をほどいた



「おまえ、ぜっっったい地獄に堕ちんぞ」


「うるさかよブンちゃん。これやるからあっち行っときんしゃい」

恨めしそうな目をする丸井に、そっとチロルチョコを持たせた

「今時チロルチョコで買収されるやつがどこにいんだよ!バカヤロー!」


まだ不満げな丸井をよそに、名前子の手が何回か俺の髪を梳く


人に頭をさわられるのはこんなに気持ちがいいもんだっただろうか


くすぐったいような
落ち着くような



「痛かったら言ってね」

「ああ」



あまりに心地良い感覚に、
すっかり暑さを忘れた。















(見てるこっちは余計暑苦しいっつーの!…クリームぱん食お)