部活の休憩中
今日も暑くてたまらない。
いつものように涼しい日陰を見つけ、だらっと下を向いて座り込んでいた。




「おー、ここ涼しー!」


…うるさいのが来た


「よ、仁王!」

丸井に呼びかけられるも、とりあえず暑いので顔も上げずに無視



「そんな態度とっていいのかな〜?すっごい情報持っちゃってるんですけど、俺」


「……」


「しかも仁王がちょーテンション上がる情報」


「……」


「聞きたいだろ?」


「……」



「なんと名字関連!」


「……っ!」

つい反応してしまった
肩がピクリと動いたのを、丸井は見逃さなかったようだ



「昨日さ、話の流れで名字に聞いてみたんだよ。テニス部で誰がいちばんタイプー?って」


「……」

これはかなり興味のある話だ
特に気にしてないフリをしながらも、無意識に耳に全神経を集中させてしまう






「そしたらさ、あいつ『仁王くん』って言ったんだぜ」











「…ウソじゃ」
反応するまいと思っていたのに、ついに言葉を発してしまった。
ニマニマする丸井の顔が簡単に想像できて腹が立つ
しかもさっきの『仁王くん』てわざわざ裏声で言いやがって名字のマネしたつもりか気色の悪い
と心の中で悪態をつき、必死で平静を保とうとしたが、心臓が早鐘のようにうるさい



「ウソじゃねぇよ。失礼なやつだな」


たしかに丸井はくだらんウソはつくが、悪意のあるウソをつくような奴じゃない。

ということは、さっきの話は本当のことで…


「じゃぁ俺先にコート戻るからな〜」

丸井の足音が遠ざかったのを確認し、顔をゆっくり上げた。


クソ暑い状況はさっきと同じなのに
まったく苦ではなくなった

別に名字が俺のことが好きだと言ったわけではないのに
何だか今自分が世界中で一番幸せなんじゃないだろうかとバカみたいなことを思った。



テンションが上がるどころじゃない
メーターが振り切れて爆発したんじゃないかというくらいだ



緩む口元を手でおさえつつ
さっきとは比べものにならんくらいの軽い足取りでコートへ戻った。









(何やら今日は仁王くん、機嫌が良さそうですね。)
(手のかかるやつだよなぁ!まったく)