チャイムが鳴り休み時間になると、この時期の教室の中はいつも以上に賑やかになる。
もうすぐ夏休みだから、みんなテンションが上がっているのだろう。

俺にとっては夏休みといってもほぼ毎日部活はあるし、あまり普段と変わらない生活だ。

授業が無いのはラクでいいが…

しばらく名前子と会えんくなるのう


しんみりしながら名前子の席に向かうと、いつものように名前子は隣の席の丸井と楽しそうに話していた。


くそ…
丸井め。
その席俺と変われと何度呪ったことだろう。



「あ、仁王くんも明日の花火大会一緒行こうよ!」

席に近づく俺に気付いた名前子に声をかけられた


名前子と花火大会…!


なんと夢のような単語―――――いや、まてよ


「仁王くん、も?」


「うん。さっき丸井くんと行こうってなったから!仁王くんも一緒に行こ!」


丸井の方を見ると、満面の笑みで頬杖をついて俺を見ていた


むかつく

だから何でいつもそういう遊ぶ約束は丸井が先に取りつけて俺がついでみたいになるんじゃ納得いか―

「もしかして予定ある?」
「いや、ない。行こう」

即答。
丸井というおまけもいるが、名前子と一緒に花火大会という事実には変わりないのだ。
丸井はまぁ…屋台にでもくくりつけておけばいいだろう。









そして翌日になり、花火大会に3人で行くことになった。


学校終わりで直接行くので、制服のままだ。


一通り屋台を回ると、名前子は綿菓子とりんご飴とお面を付け、すっかりお祭り仕様になっていた

かわいい
携帯で撮りたい



「そろそろ花火始まるし、どっか座ろうぜ」

丸井が先頭になってぐいぐい進む

「あいつはほんとにお祭り男やのう」

「ほんとだね」

2人で顔を見合わせて笑った








「ここ!いいんじゃね」

「そうだね。よく見えそう」

「じゃぁここに決定!」


あまり人がいない場所を見つけ、腰を下ろした。

「名前子、これ敷いて座りんしゃい」
女子は制服で地べたに座るのは嫌だろうと思い、読み終わった雑誌を渡した。

「え、いいよ!雑誌が汚れちゃうし」

「かまわん。ほれ」

「…ありがとう」


そうして花火が始まるまで、いつものように3人でたわいもない話をした。


「あ、やべっ」
もうすぐに花火始まるというところで丸井の携帯が鳴った

「電話?」

「…弟からだな。わりぃ、ちょっとでてくるわ」


丸井が背を向けて走り出したとたん、ドンッと大きな音がして空に花火が開いた



「うわぁ〜」

隣の名前子を見ると、瞳が花火を反射しているかのようにキラキラ輝いていた。


「綺麗だね!仁王くん!」


「そうだな…」



花火を見てはいるが、俺の全神経は名前子に集中している


ああ…なんでこんなに愛しいんだろう


花火が次々あがり、ドンドンと俺を急かす











「…好きじゃ」







さっきより一段と大きな花火の音に隠れるよう、気持ちをポツリと呟いた。

案の定、名前子には届いていない。





花火の音に勝つようなでかい声で、想いを伝えられるのは
いつになるのだろうか


想いを伝えた後、今みたいに笑顔の名前子の隣に
俺はいられるんだろうか



俺らしくもない。
こんな弱い人間だっただろうか








「来年も、来ような」

それだけ言うのが精一杯。


「うん!」

花のような笑顔で言ってくれた名前子に
心臓が、ぐっと縮んだような幸せな気持ちに包まれた。