今日は隣に住む幼なじみの幸村精市とお買い物だ。

買い物といっても、ショッピングというようなおしゃれな感じではない。
家族で賑わう大型スーパーで、お母さんに頼まれた食材の買い出しだ。



「あつ〜い。しんど〜い」

「普段ごろごろしてるだけなんだから、たまには手伝いなよ」

「…お母さんみたいなこと言わないで」


2人ならんで歩く。
夕方だけど西日がきつくて、まだまだ暑い。


「ついて来てくれてありがとねー精市」

「あぁ」




頼まれたものは、お醤油とたまごだけだったので、買い物はすぐに終わった。
なんやかんやで袋は精市が持ってくれてる。
申し訳ない。



「あ、そうだ。ちょっとそこの本屋に寄りたいんだ」

帰り道の途中にある本屋で、精市が急に立ち止まった。


「わかった。時間かかる?」

「いや。もう買う本も決まってるからすぐ済むよ」

「じゃぁ私ここのベンチで待ってるね」


精市が持ってくれていたスーパーの袋を受け取って、ベンチに座った。

精市、何の本買うのかなー
漫画じゃないよね…
難しい本買うんだろうな

せっかく付いてきてくれたし、さっきのお釣りでアイスでも奢ろうかな。
私もチョコとマシュマロのやつ食べたいし

アイスを想像すると、一気にテンションが上がってきた

早く戻ってこないかなぁ精市!


「あの〜すいません」

「へ?…はい」

完璧意識がアイスに向かっていたから、急に話しかけられてびっくりした。

誰だこの男の人…


「この店探してるんですけど迷っちゃって」

「あー、これならまっすぐ行って、信号を右に…」

「う〜ん…ちょっと自信ないんで連れてってもらえます?」

え。まぁこの店なら帰り道の途中だし…

「いいですよ。でも今、…友達が本屋行ってて。戻ってくるまで待つんですけど」
私にとって精市って友達でいいのかな?
少し違和感あるけど…他に言葉が見つからない


「あ、友達も一緒なんだ。急いでないから待つよ!」


その男の人は私の隣に座ると、ぺらぺらひっきりなしに話し始めた

なんかめんどくさそうな人だな…
精市早くこい



愛想笑いをしすぎて頬が疲れた頃、自動ドアから出てくる人影が見えた


「あ、精市!」
やっと来た!
実際は短時間だったんだろうけど、長く感じた


「おまたせ。…その人は知り合い?」

精市は『誰だこいつ』とでも言いたげな顔をしている
そりゃそうだよね。

「ううん。なんか道案内してほしいんだって」


「えっと…待ってる友達ってこの人?女の子の友達じゃ…」
さっきまでヘラヘラしてたくせに急に焦りだしたなこの人


「女の子じゃないですよ」
女の子なんて一言も言ってないのに
意味わからん


「あー…じゃぁいいよ。ははっ…!」
それだけ言うと、男の人は引きつった笑いをして走って行ってしまった


「なんだったのあの人…道わかったのかな。ねぇ精市」

「…おまえ、あんな古いナンパに引っかかってたの?」

「ナンパ?!」
あれが?!

…そんな冷たい目で見ないでください


「普通に道に迷ってただけかもしれないじゃない」

「友達を待ってるって言ったんだろ?あの人は女友達だと思ってたみたいだけど。男だとわかったとたん逃げるなんて…ナンパ以外ないだろ」


「あぁ…」
なるほど


「名前子ってさ、ほんとアレだよね」

「…なによアレって」

「『バ』で始まって『カ』で終わるもの」

「…………………………バカってこと?!」

「気づくの遅い。やっぱバカだね」

くやしい。どっちかっていうと、私被害者じゃない?!


「し…しょうがないでしょ!ナンパなんてめったにされなくて分からないんだから!」

威張るようなことじゃないけど…


「そう。ならああいう時は『彼氏を待ってるので』って言えばいいよ」


「か!か…彼氏?!」
何をいきなり言うのか!
彼氏って…精市を彼氏って…?!

「嘘も方便って言うだろ」

「…あぁ」
嘘ね
なぜかそういう嘘は悲しいように思えた。

実際は精市は私の彼氏ではないし、私は精市の彼女ではない。

「…嘘をつくの?」

「問題ないよ。」


あとから―にすれば―んだから



「え?なに?」

今何か精市は、大事なことを言わなかった?

ちゃんと聞こえなかったけど、そんな気がする


「べつに?何も言ってないよ。」

「えーウソだぁ!何か言ったでしょ」

「いいから。ほら、アイスでも食べに行こ。」

「アイス!!」
そうだ!忘れてた!

アイスを思うと自然と早足になった。

「どうせ『チョコとマシュマロのやつ!』とか言うんだろ」「…うるさいなぁ」

「ほら、よそ見してるとつまずくよ」

「お母さんみたいなこと言わないでっいたっ!」

「ほら、つまずいた。」

危なっかしい。
そう言って、精市が私の手をとった



精市は、私のことをどう思ってるんだろう。

お目当てのチョコとマシュマロのアイスを食べたけど
大好きなアイスでも、このぽっかりとした気持ちを埋めることはできなかった。






あとから本当にすればいいんだから