今日は土曜日。
学校が休みなのでパジャマで1日中ごろごろしていたら、あっというまに夕方になってしまった。


「名前子ー、花に水やってくれる?」

「え〜…お母さんがやりなよ〜」

「それくらい手伝いなさい」

「…はいはい」



しぶしぶ体を起こし、庭に出た。
うちの庭は道路に面してて、外からけっこう見えちゃう感じだけど…
花に水やるくらいで着替えるのはめんどくさい。

いいや、パジャマのままやっちゃお。


サンダルをはいて、ホースを伸ばし、適当に水をまいた。



「ただいま」

「ん?…あ!お帰り精市〜」

ちょうどうちの前を幼なじみの精市が通りかかった。精市の家はうちの隣だ。
今日も部活だったのかな?
制服姿でテニスバッグ。
平日と同じ格好だ。

「…なんでパジャマ?」
精市がダメ人間を見るような目で私を見た

「だって休みだし。家から出てないし」

「よくそれで外に出れるよね」
「いーの!うちの庭は敷地内だから家の中みたいなもんなの!」

精市は盛大なため息をつきながら、うちの門をくぐった。

「あれ?なんかうちに用?」

「聞いてないの?」

「なにが?」
何が何だかさっぱりだ


「あら精市くんお帰り」

「ただいま帰りました」

「おなかすいたでしょー!入って入って」

「ありがとうございます」

いやいやいや
なに?

「名前子も早く水やり終わらしてね。もうごはんできたわよ」

「なに?精市うちでごはん食べんの?」

「あれ?言ってなかった?幸村さん今日から家族旅行らしいんだけど、精市くんだけ土日も部活があって行けないからうちで晩ご飯食べるのよ」

「あっそう…」
知ってたらパジャマでボサボサ頭でごろごろしてないっつーの!


気休め程度に髪を手でなでながら家に戻った。




「お、すごい。お母さん張りきったね」

テーブルにはいつもより豪華なごはんが並んでいた。

「名前子と違って精市くんは運動後だからね。いっぱい食べてもらわないと」

「ありがとうございます」

私だって花の水やりしたもんねーとちょっと拗ねながら、ごはんをもそもそ食べた。

ちらっと精市を見ると、あいかわらずキレイな所作でごはんを食べている。

なんかパジャマ姿が恥ずかしくなってきた…だいぶ今更だけど






ごはんを食べたあと一緒にクイズ番組を見た。
精市はポンポン正解する。
悔しい。
「精市くん、お風呂沸いたから一番に入って」

「あ、俺は最後でいいですよ」

「いいのいいの!名前子と違って運動後で汗かいてるんだから…」
「わー!もういいから!精市も早く入りなよ!」
いちいち私と比べないでよねー!


「じゃぁお言葉に甘えて」
ふふっと笑うと精市はお風呂場へと向かった。


「ほんと精市くんはかっこいいわねぇ…背もあんなに高くなっちゃって…」

「……」

精市の姿が見えなくなった後、お母さんが幸せそうなため息をついた

まぁ…かっこいいと思うけどさ

同じくらいだった身長も、ぐんぐん差がついちゃったし
最近ふとした瞬間に男の子なんだなぁと意識してしまって調子が狂うから、あんまり考えないようにしてるんだ


私もお風呂に入る用意しよう…
自分の部屋に行き、Tシャツと短パンを探した。




トントン


「…はぁい」
クローゼットをゴソゴソしていると、ドアをノックする音が聞こえた

「入るよ」

精市の声だ



「どーした……」


固まってしまって続きの言葉が出なかった

だって!
なんか!


「ドライヤー貸してよ」


色気が!!


髪が濡れてるし首筋に雫がついてるしなんか良いにおい漂ってくるし!

「…聞いてる?」


「あ…あぁ!ドライヤーねっ!いいよ!」
思いっきり動揺しながら、精市に背を向けて引き出しをあさった。


「はい!終わったら適当に置いといて!じゃ!」

ポカンとしている精市にドライヤーを押し付けて、さっさとお風呂場へ向かった。





あー…びっくりした…
なんだあの色気は

お風呂場に逃げられてよかったな。湯船に浸かりながら思い出すと、なんかのぼせそう





お風呂からあがると、すっかり髪が乾いた精市がソファーに座っていた

「名前子、おばさんにジュース貰ったよ。ベランダで飲も」

「うん…」
髪は乾いてるけど、Tシャツから出てる二の腕とかに
どうしても目がいってしまう

思春期の男子か私は!
普通こういう恥ずかしい感じって男の子が感じるもんじゃないのか




うちのベランダはなかなか広いので、折りたたみ式のイスを出して座るとかなり気持ちいい


「ベランダで涼むの久しぶりだね」

「うん」

「ジュース、りんごかオレンジどっちにする?」

「…りんご」

「ん」

精市に差し出されたジュースを受け取る時に、手が触れてしまった

「あ…!」

ゴトッと音をたててジュースが落ちた


「…おまえ、なんか意識してるだろ」

「!!してないけど?!なに?!してないしっ」


「…ぶはっ」
「なんで笑うの…」
精市は吹き出したかと思うと、涙がにじむくらい笑っている


「べつに〜」

にやにやされてるのがおもしろくなくて、ジュースをちびちび飲みだした。


「ん、俺の髪と同じ香りがする」

「あっあたりまえでしょ!うちで同じシャンプー使ったんだから!」
ちかいちかいちかい!
私の顔のすぐ横に精市が顔を近付けて、髪を嗅ぎだした

こいつ絶対楽しんでる!


調子にのった精市が、下を向いて固まっている私の頭を撫でている。

「おまえ、やっぱ可愛いよね」

「〜うるさいっ!」


しずまれ私の心臓!!