家庭科の授業は楽しい

調理実習自体が楽しいからっていうのもあるけど、その調理実習の班が、あの白石くんと同じだから

白石くんはかっこいいしテニスうまいし大人気。何もかも普通で目立たない私は同じクラスでもなかなか彼に話しかけられない。白石くんが慈悲深く話しかけてくれても、うまく話せないし目を見れない。
緊張するんだもんな〜。


でも調理実習となると、それなりに話す機会が増える。
調理実習ばんざいだ



でも今日の家庭科は実習ではなく、来週やる調理実習の準備の授業。
作るものはロールキャベツと決まってるんだけど、その作り方や食材の量を自分達で計算するらしい。
食材もいつもは先生が用意してくれるけど、今回はそれぞれの班の2人が代表してスーパーに買い出しに行くみたい。


「蔵くん、あたし意外と料理うまいねんで〜」

同じ班の派手目な女の子は白石くんにべったりだ。


すごいなぁ…
ってちょっとうやらましかったり

そっと白石くんを見ると目が合ってしまったので慌てて目をそらした。



「ほんで、買い出しは誰行く?」
「2人って言ってたやんなぁ。めんどー」
「じゃんけんで負けた2人でいいんちゃう?」

そーしよか〜とどんどん話は進み、じゃんけんで決めることになった。みんな行きたくなさそうだ。そりゃそうだよね。貴重な放課後がつぶれるし。



「じゃんけん、ぽん!」




グー、グー、チョキ、グー、グー、チョキ



ちなみに私はチョキ
あーぁ負けちゃった…



「ほんじゃ、俺と名字さんやな。」

びっくりして見ると、チョキをピースみたいに顔の横に出してにっこり笑う白石くんと目が合った。


…まさか白石くんも負けるとは……!
買い出しなんて嫌だったけど
これはちょっと…いやかなり嬉しいかも


つられてへらっと笑うと白石くんもまた目を細めて笑ってくれた


「え〜蔵くんが行くんやったら、あたしが行くー!名字さん、代わろ!」

「えっ…」
「あー、あかんあかん。そんなんじゃんけんした意味ないやん」
割って入ってくれたのは白石くんだ。

「買い出しは、名字さんと俺っちゅーことで!はい、この話おしまい!」
ちょうど授業の終わりを告げるチャイムがなった。



その後の午後の授業は、緊張とか楽しみな気持ちで全然頭に入らなかった。いよいよ待ち遠しかった放課後だ。



「名字さん」


顔を上げると白石くんが私の席まで来てくれていた



「材料買ったらまた家庭科室の冷蔵庫に入れに学校戻らなあかんらしいわ」

「あ、そうなんだ。」

「やし、学校の近くのスーパーで買おか」

「うん!」

「よし、ほな行こ」
白石くんはにっこり笑った
笑顔が眩しいです…




どきどきしながら白石くんの隣を歩いた



「名字さんはロールキャベツ好き?」

「うん。キャベツが甘くておいしいよね」

「あーそやなぁ。…名字さん料理うまそうやな」

「そうかな…?!」

「うん。家庭科の手際良いし、いいお嫁さんになりそうやわ」


あぁ…なんか心臓がこしょばゆくて頬がゆるむ…

いつもよりいっぱい話せて幸せを感じている間にスーパーに着いた


カゴは…あ、あった!

「ええよ、俺持つし」
私がカゴを持つ前に白石くんが持ってくれた。


なんかこうやってスーパーうろうろするのって…一緒に住んでるみたい…なんて。




「材料なんやっけ?」

「え?えっと…キャベツと、ミンチと…」

「確か調味料は学校にあるって言ってたな」

「そ、そうだね」いかんいかん。
浮かれてないでちゃんとしなきゃ!







買い物はスムーズに終わり、スーパーを出た。
荷物はスーパーの袋2つ分


「…やっぱり1個持つよ」

「いやいや、いいって。名字さんには重すぎるで」

「でも白石くんが…」

「俺はええねん。今日部活なかったから体力余ってるし」


「…ありがとう」
せっかくなのでお言葉に甘えさせてもらうことにした。












「おし、任務終了やな」
袋に班名を書いて家庭科室の冷蔵庫にしまった。


あーぁ…終わっちゃった…



「名字さん、まだ時間ある?」

「え?」

「ちょっと休憩しーひん?」




願ってもなかった状況だ。
ジュースを買って、中庭のベンチに座った。

ぽかぽかしていて気持ちいい。


「思ってたより早く終わったなぁ」
「そうだね」

「ごめんな、今日。買い出し代わってもらえそうやったのに、俺が無理やり話終わらせてしまって」

「ううん!買い出し全然嫌じゃなかったし」

むしろ嬉しいくらいだ。



「…なんか、今日は名字さんよく笑ってくれて嬉しいわ」
「え?」

「や、いっつも話しかけてもあんま目合わせてくれへんから、俺嫌われてんかなーって不安やってん」

「そんな!ぜんぜん!」
そんな風に思われてたんだ…!うわ〜私のバカ!


「よかった。ほなこれからは自信持ってもっと話しかけるわ」
「うん、私も…」
笑って白石くんを見ると、目があったけどちょっとそらされてしまった
急に見すぎたかな…失敗




「…今日も…綺麗なカフェとかで休憩できたらよかったんやけどなぁ。」
白石くんは下を向いて頭をかいている


「荷物多かったし、しょうがないよね」


「…そやな」

なんか白石くん、急に落ち着かなくなったな…
頭をかいたり手をかいたり
下を向いたまま、小さな声であ〜とか唸ったり

いつも凛としてる白石くんの珍しい姿を意外に思って見ていると、何かを決めたように白石くんが、ばっと顔を上げた


「よかったら今度カフェとか行かん?ええとこあんねんけど」



いきなり早口で言われて一瞬理解できなかった…

けど…

これって…


遊びに誘ってくれてる?

理解するにつれて顔がどんどん熱くなってきた

そんな私と同時に白石くんもほんのり赤くなってきた…?


「あかん。つられてまう。その顔反則やで…」
白石くんはまた下を向いて頭に手をやった


「ごめんな…ほんまはもっとかっこよく誘うつもりやったんやけど…」

やっぱり誘ってくれてたんだ…





「行きたい…です」

「…敬語なってるやん」


そう言って笑った白石くんの顔はまだ少し赤かったけど、今まで見た中でいちばんどきどきさせられる笑顔だった。