カリカリと私のシャーペンの音だけが教室に響く。
さっきまでクラスの子が何人かいたけど、いつの間にか帰ったみたい。


一度シャーペンを置いて、ぐんと伸びをした。
疲れたー…

机に置いているチョコをひとつ、口へほおりこんだ。

図書室だとお菓子食べられないし、音をたてないように一つ一つの動作に気を使うから
私はいつも放課後は教室で勉強することにしてるのだ。


最近勉強ばっかりしてる気がする。

勉強したくないのに、やってないと落ち着かない

受験なんてなくなってしまえばいいのに

心がずーんと重くなる。

トントンと、机を叩く指が止めらない

イライラしちゃうんだ…

はぁ〜とため息をつきながら、机に突っ伏した。



「あ、名字さん」

「…幸村先生」

名前を呼ばれて顔をあげると、先生がドアのところから顔をのぞかせていた。


幸村先生はあいかわらず爽やかでかっこいい。
教室にふたりだけなんて、今までなったことない
なんだか緊張しちゃうな…


「ちょうどよかった。この前返せなかったノート、返すね。」

「ありがとうございます」

この前カゼで休んじゃったから、私だけノート返してもらってなかったんだ。

パラパラっとノートをめくると、幸村先生のきれいな丸が並ぶ。

そういえば私、ネコのらくがきを消さずにそのまま提出しちゃったかも

やば〜恥ずかしいと思いつつそのページまでいくと
私の描いたネコにすこし付け加えられていた


『よくできました』
幸村先生の綺麗な文字

吹き出しで囲ってあり、まるで私の描いたネコが話してるようになっている。


「かわいいネコだったから、ついね」

にこりと先生が笑う。


幸村先生みたいなかっこいい大人の男の人が、こんなかわいいことをするなんて
意外すぎて、ポカンと口を開けてしまった。

「勉強、がんばるのは良いけど、暗くなる前に帰りなよ?」


そういって、私の机にアメを置いて
幸村先生は教室を出た。


ノートに書かれた『よくできました』と、もらったアメを交互に見る。

癒されすぎて、荒れた心に染みすぎて
なんだか涙が出そうになった。


ううん、それだけじゃない


きっと誰かが
「恋をしてもいいんだよ」と言ってくれたら
私は間違いなく幸村先生を好きになってる


こんなこと考えてる時点で私は……


でもそれは決して叶わない恋だから

それだけは一瞬でわかることだから

だから涙が出るのかもしれない。


静かな教室に、私の鼻をすする音だけが
小さく響いた。