ぱしんっと何かが倒れるような音がした。

顔を上げてまわりを見渡すと、どうやら机にかけていた私の傘が倒れて床を叩いた音のようだ。

大きな音をさせて申し訳ないなと一瞬心配するも、どうやら私以外に利用者はいないようだった。

気付けば窓の外はまっくら

やばっ
また集中しすぎちゃった

はやく帰らなきゃ!

急いで読みかけていた夏目漱石の本をカバンにしまい
ぱたぱたと図書室をあとにした。


一気に暗くなるのがはやくなったなぁ
もう夏も終わりか…

夜になると少し肌寒いほどで、遠くからリーンリーンと
か細い虫の声が聞こえる。
なんだな夏が恋しくなるなぁ。

でも秋になればますます読書がはかどりそう。

さっきまで読んでいた本のことを考えながら校門に向かっていると、
後ろから足音が近付いてきた。


「名字さん」


「幸村先輩!」


名前を呼ばれて振り向くと、そこには密かに片思いをしている幸村先輩の姿があった。


「今部活帰りですか?」

「うん。名字さんは?また図書館?」

「はい…つい夢中になってしまいました」

「もう暗いから駅まで一緒に帰ろうか。」

「はい!ありがとうございます!」


幸村先輩はニコリと笑うと、私の隣を歩き出した。

まさか一緒に帰れるなんて
嬉しいなぁ…

幸村先輩とは去年美化委員で一緒になった時に知り合いになり、
それから見かけるとよく声をかけてくれるようになった。

図書委員になりたかったのにジャンケンで負けてしぶしぶ美化委員になったのだけど…
あの時負けてよかったな、なんて今は思う。


先輩の部活の話を聞きながら、のんびりと駅に向かう。

幸せだなぁ…
もっともっとゆっくり時間が流れたらいいのに。

幸村先輩が隣にいるだけで、まわりの世界がキラキラに見える。

いつもはなんとも思わないのに
世界はなんて美しいのだろう。
胸が高鳴って、涙が出そうだ。


空を見上げると、まんまるな月がぼんやり光っていた。




「先輩…月が綺麗ですね。」

「ん…あぁ、ほんとだね。」


大好きで幸せで、ぽろりとこぼれた一言に
頷いてくれることの幸せ。


今はこれが精一杯の私の告白