「あ…。」

カレンダーを見てはっとした。


今日は精市と付き合って5年目の記念日だ。


一週間くらい前までは覚えてたのに…

その2.3日後にはふと忘れてしまって
当日思い出すなんていうのはよくあること。



付き合った当時は土曜だったその日も
年が経つとともに平日になってしまい
お互い社会人になった今ではどうしても予定が合わないのは
どうしようもないことだ。

次の休みには、会ってささやかなお祝いをする約束をしているから
油断してしまっていたのだ。

5年目ともなるとこんなものか…

もちろん精市のことは大好きだし、
この気持ちは付き合った当時と比べても変わらない。

ただ、一緒にいることがあたりまえになりすぎているんだ。


部屋の棚に飾ってある、二人で映った写真にふと目をやった。


心臓の奥からくすぐったいものがこしょこしょ出てきて、この人が好きなんだ!って体が歌ってる。


電話…しようかな


記念日だし
これからもよろしくねって、やっぱり当日に言葉で伝えたい。



手が離せないかもしれないけど
とりあえず一度かけてみよう。


携帯を持ち、履歴から精市へと電話をかけた。


少しの間があいて、プルプルプルと
電話がつながる音がした。


『もしもし』

「あ、もしもし!今大丈夫?」

『大丈夫だよ』

穏やかな、大好きな声が聞こえてきて
それだけでもう幸せだ。

それと共に、なんだか緊張してきた…
いきなり、これからもよろしくね!なんて言うのも照れる




「……今日、何の日か覚えてる?」

『ん?なんだっけ?』

「えっ」

ええええええ……

まさかの忘れてるパターン…?


衝撃的すぎてしばらく何も言えないでいると、電話のむこうから
ふっと笑う声が聞こえた。


『ウソだよ。今日で付き合って5年目だね。』

「……タチが悪い」


『ごめんごめん。これからもよろしくね。』


「こちらこそ…よろしくね。」

言えた…
よかった…


安心感からかそれからは話したいことがぽろぽろ出てきて
話題が途切れることがない。

忙しいだろうに、うんうんと楽しそうに話を聞いてくれる精市が愛しくてたまらない。

なんて素敵な人なんだろうと、いつも思ってる。


「精市は、私なんかのどこを好きになってくれたの?」

ふと頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出してしまった。


こんなこと急に聞いて…
精市は困るに違いない。

ごめん、冗談だよって伝えなきゃ



「全部だよ」

「え?」

「名前子の好きなとこ。全部」


予想外の言葉になんて答えればいいのかわからない。


「わ…わたしなんて良いとこないよ、すぐ怒るし」

「そうだね、すぐ拗ねる。」


ですよねー


「でもそういうところも、全部かわいいと思ってるよ。悪いとこも良いとこも、全部揃って名前子なんだから。」


「…ありがとう」


精市の休憩時間も終わる頃

じゃあまたね、と電話を切った



幸せでまだ頭がポワっとしてる。

余韻に浸っていると
玄関の方からチャイムの鳴る音がした。


少し急いでドアを開けると、
箱を抱えた宅配便のおじさんが立っていた。

何か注文とかしてたっけ?

疑問に思いながらも宛先はたしかにうちなので
ハンコを押して受けとった。


差出人は…

精市…?


高鳴る心臓に急かされながら
丁寧に梱包された箱を開けると

色とりどりの花束が出てきた。


花の名前はわからないけど
すごく綺麗だ。


これからもよろしくね。


丁寧な字で書かれたメッセージカード


嬉しくて、花束ごと抱きしめた。


あぁ、早くあなたに会いたい。