冬本番まっさかりの寒い朝

赤や白でめでたく飾り付けられた商店街は
初詣に向かう人達でぎゅうぎゅうに活気付いている。

かくいう俺も、彼女である名前子と初詣にやってきたんやけど…

この人の数やとお目当ての神社まで、なかなか辿り着けそうにない。

やけど、今年の初詣は
今まで以上に気合をいれてかからなあかん。

1月に入り、いよいよ受験本番。
なにがなんでも名前子と同じ高校に受かりたい。


俺の希望でテニスは強く、俺よりも頭の良い名前子の学力に合わせて偏差値は高くという条件で一緒に高校を選んだため、正直すこし不安が残る。

成績は悪くはないと思うけど
俺だけ落ちたら…


そんなマイナス思考が頭の中をぐるぐる回る。


神社に付き、お賽銭も奮発し、いつもより念入りに手を合わせて一礼した後

ふと顔を上げると、おみくじを売っているのが見えた。


「ねぇねぇ、おみくじも引こうよ」

「…そやな」
正直この時期におみくじ引くんは怖いけど…
かわいらしく楽しそうにしている名前子の意見を却下するという選択肢は俺の中にはない。


「この前テレビで見たんだけど、おみくじ引く前に占いたいこととか願い事を頭の中で思い浮かべてから引くのが正しいやり方なんだって」

「そうなん?知らんかったわ」

「そのお願い事の答えが、おみくじらしいよー」


なるほど…
ほな引く前に、受験のことを考えればええんやな

それにしても…大凶とか引いたらシャレにならんな


う〜んと念じながら、おみくじの入っている筒をよーくふって
出た番号を巫女さんに告げると
手際良く1枚の紙を渡してくれた。


覚悟を決めて
いざ、開封…!



「……おお…」

中吉

普通や…よかった

大吉なんて贅沢は言わん。
大凶じゃないだけでありがたい。


とりあえず一安心し、おみくじに書かれた内容をゆっくり読みはじめた。



願い事     報われない。我慢の時。



………ん?

今なんかとんでもないものを見た気がする。



願い事     報われない。我慢の時。




…………まじか

ガラガラと音をたてて崩れる
名前子とのバラ色の高校生活



今にも地面に膝をつきそうだ

「…くん、謙也くん…謙也くん!」


「…ぅえ?…あ、あぁごめん。ボーッとしとった。」


何度か呼ばれてたのに、ぜんぜん気付かんかった。


「おみくじどうだった?」

「……あんま良くなかったわ。受験うまくいくようにーってお願いしたんやけどな」


はははっと笑ってみるも、頬が強張って
ちゃんと笑えてへんやろうなっていうのが自分でもわかる。



「大丈夫だよ!私のおみくじ、すっっごく良かったの!だから謙也くんも合格するよ!」

「…え?なんで?」

状況が良く理解できずにまぬけな声をあげる俺に
じれったそうに名前子が詰め寄ってきて
俺の顔につきそうなほど、おみくじを勢いよく突き出した。


名前子のおみくじは…



願い事     念願が叶う。



「私ね、おみくじ引く前に、謙也くんと一緒に合格できますか、教えてくださいって願いながら引いたの。だから、謙也くんも合格するよ」



そう言って、すこし照れくさそうに笑う名前子に
ささくれ立った心が、穏やかになっていくのがわかった。


俺のことを一緒に願ってくれたこともやけど
大好きな人と、同じ願いを共有できるということが
すごくくすぐったくて
嬉しかった。


これは死ぬ気で受からな、男ちゃうやろ。


「俺がんばるわ」


今度は心から笑うと
名前子も嬉しそうに、にっこり笑った。