※白石くんが、某テーマパークについて夢の無い発言をしています。
ご注意ください。











今にも雪をつれてきそうな風が
ピーっと甲高い音をたてて過ぎ去っていく
いかにも冬らしい今日この頃

目の前でうな垂れる謙也には
雪ではなく雨が降りそうなほど、どんよりしている。

なんでも最近、謙也の彼女がアイドルのハヤト様とやらにハマってしまったらしく、それがまた大変な熱狂っぷりらしい。


「だって電話かけても『今ハヤト様のDVD見てるからあとでね』って切られんねんで?これ浮気やろ!」

机に突っ伏してどんよりしてる謙也には悪いけど…それ浮気か?


「浮気は言いすぎなんちゃう?相手は芸能人なんやし実際会ってるわけでもないし」

「………」

「恋愛の好きっていうより憧れの延長やろ。それくらい許してあげや。」

「いや!あれは恋愛や!だってこの前『ハヤト様と結婚する〜』て言うててんぞ!」

急に起き上がらんといて…
あーびっくりした


「…冗談やろ、そんなん。大好きな彼女なんやろ?ハヤト様ごと愛したるーって言えてこそ真の男やで」


「俺は男を愛す趣味はない…」


へろへろ、と力が抜けて
また机に突っ伏してしまった。

手のかかるやつ…



「白石くん」

謙也が醸し出す、どんよりとした空気を一変させるこの爽やかな声は…

「名前子!おはよう!」

俺の大事なかわいい彼女である名前子が、俺に会いにやってきてくれた。


「ミッフィースタジオ行ってきた時の写真持ってきたよ」

「おお!見せて見せて」


主に女の子に大人気のテーマパーク、ミッフィースタジオ。
ミッフィーマウスというウサギなんかネズミなんかようわからんキャラクターとその仲間達で構成されているらしい。

そのテーマパークに、名前子は友達と行くと言っていたので
写真を見せてくれとお願いしていたのだ。

もちろん俺が見たいのは、ミッフィーマウスではなく名前子なんやけど


「お〜かわいいなぁ…」

「でしょー!クリスマスの飾りがいっぱいで、すっごくかわいかったんだ〜」

俺がかわいいって言ってんのは、もちろん名前子なんやけど。
その後ろのツリーは全く視界に入ってない。


この写真俺にもくれへんかな、とか思いながら何枚かじっくり見たところで
大変な写真に辿りついた。


「なんやこれ…」

「あ!いいでしょこれー!ミッフィーがハグしてくれたんだよー」

顔を両手で挟んでとてつもなく嬉しそうに笑う名前子
写真の中の名前子も、満面の笑みや。


まぁ…まぁ…

ミッフィーマウスは小さいからな……

中に入ってるのはきっと女の子やろう、うん

たとえミッフィーマウスがオスでも中は女の子やったら問題なしや。そうや、うん。


嬉しそうな名前子に水をさしてはいけないと
半ば無理矢理自分を納得させ、次の写真に目をやった。


「……これ」

「そうそう!ダーフィーともハグしてもらったの」

これまた写真と同じ嬉しそうな顔を浮かべる名前子

ダーフィー……
ミッフィーマウスの仲間である、黒くて長い耳の
背の高い犬っぽいキャラクター…

背の高い…

背の高い…


「名前子…今後ダーフィーと写真を撮ることは禁止する。」

「えぇ?!なんで!」

「だってこれ絶対中の人男やん!」

かわいいぬいぐるみを被って名前子の気を引くとは…
なんてやつ


「中の人などい  な  い」


「………うん?」
急に名前子がいつもと違う口調で話すから変な声でてもうた


「やだ!撮るもん!」

「あーかーん」

キッと上目遣いで睨んでくる彼女の顔に、顔が緩みそうになるのを必死で堪えながら
ノーサインを出し続けた。



「白石…」

「おおっ謙也…おったん…」

「ずっとおったわ!」


あかんあかん、名前子に夢中で謙也の存在を忘れとった



「ダーフィーごと名前子ちゃんを愛してこそ真の男やろう?」


さっきの俺の言葉を「どや!」と言わんばかりのにやりとした笑顔で話す謙也

くそ…その顔めっちゃ腹立つ…!


「そうだそうだ!」なんて謙也に同調する名前子の姿は悔しいけどめっちゃかわいい。


こうなったら奥の手やな


「わかった、そこまで言うんやったら…」

なんて、両手をあげて降参したようなフリをして


「わぁ!」


ぎゅうっと名前子を腕の中に閉じ込めた。


「俺もダーフィーみたいに街中でも教室でもハグしてええんやんな?」


「……!!」


俺の体に顔を押し付けてるせいで
顔全体は見えへんけど、隙間から見える頬は確実に赤く染まってる。

バタバタとか弱い抵抗をされるも、そんな攻撃じゃ俺にはご褒美にしかならへんで?


彼女の全てを手に入れられるなら
真の男の称号なんて、俺には全く興味の無いものなのである。