日向ぼっこをしよう、と彼女に言われるがまま
手を引かれるがまま
行き着いた先は、屋上だった。

「寒い」


ぴゅうっと吹く冷たい風に思わず自分の腕をさすりながら不満を口にすると
「光が当たるところに行けば平気だよ!」と急かすように
日当たりの良いベンチへと押された。


彼女の言ったとおり、日の光が当たる場所は
じんわりと暖かい。

これなら座っていられないこともない。

ベンチに座り、自然と空へ顔を向けると
雲一つなく、どこまでも続いているような青空だった。

さっき暖かいとは思ったけど
鼻をかすめる風はやっぱり冷たくて
すんっと鼻が鳴った。


「何か飲み物飲む?買ってくるけど」

温かい紅茶でも飲みたい気分だ。


「ん〜…じゃあ、いちごミルクで」

「また?しかもこんな寒いのに?」

名前子はジュースといえばいちごミルクしか知らないのだろうかというくらい、いつもいちごミルクを欲しがる。
それは冬になっても変わらないらしい。

「だって好きなんだもん。これくらいの寒さなら余裕」

「あぁそう…」

まぁ本人が大丈夫と言ってるのだから大丈夫なんだろう

校舎の中へ戻り、屋上から1階降りたところにある自販機で
自分のホットの紅茶と、つめたいいちごミルクのパックジュースを買った。


「はい、お待たせ」

「ありがと!」

再び屋上に戻ると、やはり風が冷たい。
そんな中、嬉しそうにストローを取り出している名前子



「あ〜、おいしい」

とても幸せそうに笑った。

俺も自分の紅茶を少し口に含むと
鼻がじんわり暖かくなるのを感じた。

「ねぇ、精市はこれ飲んだことある?」

「ないよ。見た目からしてすごい甘そうだよね。」

甘いものは嫌いじゃないけど、その真ピンクの
いかにも甘ったるそうなパックに手をのばす気にはならない。

「えー、それって飲まず嫌いだよ。ダメだよそーゆうの、人生損するよ」

そう言いながらパックをぐいぐい俺の方に押し付けてきた

その顔や仕草をかわいいと思ってしまったと同時に
思わずパックを受け取ってしまっていた。

そんな俺がジュースを飲むのを、キラキラと期待に満ちた目で見上げてくる名前子

こんな状態で「やっぱりいらない」なんてとても言えないくらいに、俺はこの子に夢中らしい


そのままストローを口につけると
想像通りの甘い香り

でも、味は意外と…

「…思ってたより甘くないんだね」

もっと練乳の濃い味がするんだと思ってた。


「ね、おいしいでしょ?」

「…普通」

思ったより甘くないと言っても、ずっと飲み続けるほどおいしくはない。

普通、という正直な感想では
彼女は満足しなかったらしい。


「えー!なにそれー!せっかくあげたのにー!もったいない」


眉を寄せ、すこぶる不満そうな顔がおもしろくて笑ってしまったために
さらに怒らせたようだ。

だってかわいいと思ってしまったんだ
しょうがないだろ?


「こんなことならあげなきゃよかった。私の貴重な一口返してよっ」


口を尖らせながら、無茶なことを言い出した。


「それは無理な相談だね」

「…返せー」


子どもっぽくてかわいくて、くすくす笑うと
俯いて恥ずかしさを紛らわすように
顔を少し赤らめながら、返せ返せと小さくつぶやく声が聞こえる。


「わかった。返すよ」

良いことを思いついた俺の言葉に
驚きと期待を含んだ目をした名前子が顔をあげた。

それをチャンスとばかりに、かわいくて少し生意気な小さな口を
自分の唇でふさいでやった。


「いちごミルク一口分くらいの甘さはあっただろ?」




「………それ以上だよ…」

恥ずかしさで泣きそうな、消えそうな声を真っ赤な顔でぽつりとこぼした彼女に、声を出して笑う頃には
もうすっかり体はぽかぽかになっていた。