今日の放課後は大好きな委員会活動の日!
友達はみんなめんどくさいだの早く帰りたいだの文句ばかり言ってるけど私は違う。

だって私が所属しているのは美化委員会なのだ。

あの幸村くんと同じ委員会。
そりゃやる気も出るってもんでしょう!
毎回誰よりも早く教室で待機してる私。
我ながら健気である。




「あ、名字さん。」


噂をすれば

幸村くんがやってきた。


「今日も早いね。早速向かおうか」


「うん!」




幸村くんに誘われて、2人で向かった先は
花でいっぱいの花壇。


美化委員会の中でも、私と幸村くんは
花壇の世話係として活動することになっているのだ。


花の手入れをしている時間は
私にとって、すっっごく貴重な時間だ。
だってあの幸村くんを一人占めできるんだもん。


幸村くんは当然のごとく女の子にモテモテだから
普段からかわいい女の子達に囲まれていて、私なんかが話しかける隙なんてまったくない。

1人でいる時なんて、テニスの試合中くらいじゃないだろうか。
さすがに試合中にコートに突っ込むなんてバカなマネはできないし


いや、もう花壇万歳


だってここなら他の女の子は全然近寄ってこない。

なぜなら、虫だらけだから。


こうやってスコップで少し土を掘っただけで…

「っ………」

ほらでた元気なミミズ。

ギャアって声が出そうだったよ危ない危ない。



私だって虫とかミミズとか…ほんとはすっごく嫌いだ。怖い。


でも幸村くんの中では私は『虫が平気な女の子』であり、
これからもそうでなくてはいけない。


美化委員で花の世話係を決める際、男子1人女子1人ということになった。

男子は幸村くんということで
女子の希望者は当然の如く殺到


「みんな花が好きなんだね」と笑う幸村くんに、
そうなのお花大好きなの、と一見かわいい笑顔を返す女子達のお腹の中は真っ黒である。


話し合いをしても誰も引かない。
私だって引くわけにはいかない。

潔くジャンケンで…という流れになったころ、


「そういえば、みんな虫は平気?」


幸村くんの一言に、女の子の目は丸くなった。


虫?


「花壇は当然虫だらけだからね。虫が苦手な人には辛いと思うよ。」


まぁ虫だけじゃなくてトカゲとかカエルもいるけど、とニコニコ話す幸村くんとは対照的に、女子の顔はだんだん青ざめてきた。


「虫か〜…ちょっとムリかも」
「てか爪も絶対土で汚れるよね?マニキュア剥がれるかも…」
「爪切りたくないよね〜」


おしゃれな女子からは、ポツポツと弱気な発言が聞こえてきた。

これは…チャンス!



「…私、虫もカエルも平気だよ」



言った…

言ってしまった…


振り返った幸村くんと、バチリと目が合った。


そのとたん、すごく大胆なことをしてしまったんじゃないかと
心臓がバクバクしてきた。


でも!



「じゃあ名字さんで決まりだね」


その一言で、私は天にも登る気分だった。

虫が平気なんて大嘘なことも忘れて…



でも本当のことがバレたら、花の世話係を降ろされるかもしれないし
嘘がバレて幸村くんに幻滅されるのだけは避けたい


虫が出ても気合で悲鳴を我慢して、
なんとか今日までやってきた。

やってきた、けど…


「あ、見て名字さん。カミキリムシ」

「!!!…わ、わぁ〜大きいね〜」



幸村くんは虫を見つけると、なぜか毎回すごく笑顔で見せてくれるのだ。

見たくないのに…!
カミキリムシ、キモチワルイ!

〜でもそれを嫌がったら嘘がバレちゃうから
私は精一杯の作り笑顔を返すしかない。

ちゃんと笑えてるのかは分からないけど…



幸村くんは、一通り虫を見せると
花壇の外へ逃がした。


そしてまた少しの沈黙


こうしてニヶ月くらい幸村くんと花の世話を一緒にしてるけど
まだうまく話せないんだよね


今だって、こんなに近くに
肩が触れちゃいそうな距離にいるのに
緊張しちゃって全然話題が出てこない


こんなんじゃ
逆に嫌われちゃうかも


自分のダメさに小さく息を吐いた。




「ね、名字さん名字さん」



こんな私に気を使って話しかけてくれる幸村くんは、ほんとに良い人だなぁと思いながら
下を向いていた顔を上げた


「っ…!!!!」


そんな麗しく優しい幸村くんの両手には

なんとも雰囲気に合わない


カエル…………


てゆーかでかっ!



「このカエルすごくない?こんな大物めったに見られないよ」


「そ……そうだね」

でかすぎでしょ!
これって牛ガエルとかいうやつ?!


でかー!
怖ー!!


「ねぇ名字さん、これ飼う?」

「飼っ?!!……わない…うち水槽ないし…」

危ない危ない
思わず本音が出るところだった…



「そっか、残念。でも…せっかくの大物だし、触る?」


「……さわるのも……やめとこうかな…」


触るとかありえないよー!

もう早くどっかやってー!!

私の思いを知るはずもない幸村くんは、相変わらず良い笑顔で
少しずつカエルを近付けてくる。


あまりの怖さに
無理して作った笑顔もだんだん限界になってきた

汗とか涙とか鳥肌とか…
もう全部出そうだよ


ほんと…
嘘なんかついた私が悪かったんだ…

神様ご先祖様ごめんなさい…
何か今なら悟りを開けそう…





「ぷふっ……」


どこかへ飛びかけていた私の意識は、幸村くんの吹き出した声に呼び戻された。


笑ってる…?

幸村くんは我慢できないといった感じで手の甲で口を押さえ、肩を震わせて笑ってる。


その手には、もうカエルはいない





「ごめんごめん…あー、おっかし…ふふ」


なんで笑われてるのか分からず、
ぽかんと幸村くんを見るしかできなかった。




「ごめんね、あんまり可愛いから意地悪しちゃった」


意地悪?
何が?

そして可愛いって?
カエルが?


まだワケが分からず、頭の中はハテナマークでいっぱいだ。



「名字さん、本当は虫とか苦手なんだろ?」



幸村くんの一言に、頭が凍りついた。



もしかして
バレてる…?!




「だって初日から虫を見つけるたびに体がピクッて動いてたよ?」


初日から?!

じゃあ…初日からばれてたってこと…?


「じゃあ、今まで虫を見せてきたのは…」

「わざとだよ。だって必死に我慢してる君がかわいくてさ。でも、もう意地悪はやめるよ」


ごめんね、と幸村くんは悪戯っ子のような顔で笑った。


なんだ…
ばれてたのか……


今まで必死に我慢してきた私の努力はいったい…


虚しい風が私の心に吹いてきた、と同時に1つ気になることが


「…わかってたのに、なんで私のこと花の世話係からクビにしなかったの?」


虫が得意でもない、何の特技もない私を
このまま世話係にしていても
何のメリットもないのは分かりきっている。



「だって君はとても一生懸命やってくれてたじゃないか」


「手が汚れるのも、汗をかくのも嫌がらずに。すごく頼もしかったよ」



なんか、泣きそうになってきた

同じ委員会になるまで、話したこともなかったし
もっと言えば私のことを知らなかったであろう幸村くんに

こんな風に褒めてもらえてる



「同じ委員会になるまで、ちゃんと話す機会がなかったけど。こうしてしばらく一緒に土をいじって…今じゃ名字さんの一挙一動が気になってしょうがないんだ。」



虫を見た時の私、そんなにおもしろい顔してたのかな…


嬉しいけど、なんか複雑


「ねぇ、俺も質問していい?」

花を優しく撫でていた幸村くんの手が止まり
ゆっくり私の顔を覗き込んだ




「虫が平気なんて嘘までついて、立候補したのはどうして?」




「………!!」

これは…1番聞かれたくないことだよ幸村くん!!


一瞬頭が真っ白になったかと思うと
すぐにカーッと顔が熱くなってきた。


そんな私に構うことなく
「ねえ何で?」
と素敵な笑顔で更に詰め寄る幸村くん


ぜったいに わかってるでしょ……!



「い…いい意地悪は、やめるんじゃなかったの…!」


「ごめん、名字さんをみてるとつい意地悪したくなるみたいだ」



あああもう…何だろうこれ…!
両手で頬を押さえたまま恥ずかしくて顔を上げられない!




「言えないなら、俺から言おうか?」



指の間から見えた幸村くんの顔は
それはそれはとても綺麗で



「名字さんが好きです。」




どんな花よりも綺麗だった。