教室がいつも以上に騒がしく、みんなどこか落ち着きがない。

なぜなら今日は席替えの日。

毎回クジで決めるため、どの場所になるか予想ができない。


クジを引き終わった奴からは歓喜の声や悲鳴が聞こえてくる。


俺のクジは………


よし、窓際の一番後ろ

これ以上ないくらいのアタリ席に、心の中でガッツポーズをした。



「げぇ!マジかよ!!」

聞き慣れた声がする方を見ると、ブン太がクジを開いた状態で目を見開いていた。


ブン太の席は………


「教卓のまん前…ありえねーだろコレ……」


これ以上ないほどのハズレ席に、ブン太の顔は絶望感で溢れている。



「まぁ日頃の行いじゃな」
楽しくてしょうがないといった感じで笑ってやった。


「うっせー!日頃の行いで言えば仁王なんか校長のまん前に座らせて丁度いいくらいじゃねぇかー!」


悔しがるブン太が楽しくてしょうがない。

「で?仁王はどこなんだよ……一番後ろ?!ふっざけんなよおまえ俺と変われー!」


「イヤ」



しばらくからかって遊んでいると、少し離れた場所から悲痛な声が聞こえた。


「えー!私教卓の前なんだけど!」


この声は…

どこにいても聞き分けられる自信があるこの声は…


名字の声…!



……今、教卓の前って言ったか…?




普段あまり発揮しない視力を全力で奮い立たせ、
名字の手にあるクジを見ると

さっき聞こえた通り、教卓の前。
つまり
ブン太の隣



そろりと横目でブン太の顔を見ると、
きっとさっき俺がしていたと思われる悪い顔をして笑っていた。


ヤツにも名字の声が聞こえていたらしい。


アタリ席だったはずの俺のクジがただの紙切れに見え
ブン太の持っているクジが一等の宝くじに見える。


「丸井くん…」
「焼きそばパン10個」


……人のこと言えんがこいつ極悪人じゃ



まいどー!と笑うブン太のクジを、舌打ちしつつ奪い取り

自分の机を教卓の前へと運んだ。



「あ、仁王くん隣?よろしくねー」


教卓の前という堅苦しい席も
この笑顔があれば天国だ。


しばらくは名字の隣は俺が独り占め


いつか席だけでなく
名字の全てを、独り占めしてみせる


そんな想いを含めて
よろしく、と俺も笑った。