休み時間が始まるチャイムが鳴ると、隣の席の名字が
待ちきれない!と言わんばかりに
カバンから雑誌を取り出した。



「うわぁ〜…かわいい〜!」


自分が好きな女の子が何かをうっとり眺めている。
それが何なのか、気にならないわけがない。

名字の声に誘われるように机に広げられた雑誌を覗くと
ウエディングドレス姿の女性が幸せそうに微笑んでいた。



「私の一番好きなモデルさん!最近結婚したんだって!かわいい〜!」


俺の視線に気付いた名字が興奮したように説明してくれた。

なんでもその女性は名字が毎月買っている雑誌の専属モデルで、今月号には結婚式の様子が特集されているらしい。


写真やインタビューをキラキラした目で見ている名字。
女の子だなぁと微笑ましく見守った。



「へぇー!すごい!『彼と私の小指に、赤い糸が見えたんです。』だって〜!ロマンチックだ〜」


赤い糸か。
そういえば、そんな話もあったなぁ。



「赤い糸とか見えたらステキだろうね。運命の人っているのかな。」

そう言いながら、名字は無意識に自分の小指の根元を撫でた。



けど俺は赤い糸なんて見えなくてよかった、と思う。

だって、名字の糸が他の男と繋がっていたら…
そんなの気がおかしくなってしまいそうだろ?



「運命ねぇ…なんか勝手に決められてるなんて癪だな。」

自分の運命だからって、何もかも受け入れるより
抗って自分で作りたい。


そう口に出すと、さすが幸村は強気だね〜とからかうように、名字が笑った。



だってそうじゃないか。
名字にもし運命の人がいたとしても、それですんなりと諦められるわけがない。

俺のことを選んでくれるように、何だってやってやる。





「でもさ、自分が好きになった人が運命の人だったら嬉しくない?」



静かに闘志を燃やしていた俺に、春風のように穏やかな名字の言葉。
自然と入っていた体の力がするすると抜けた。



……そういう考え方もあるね。


うん、そうかもしれない。



名字の運命の人が俺じゃなかったら…なんてネガティブな考え方ばっかりしていたけど


でも、そうだね。

それはとても素敵なことだ。


同じ場所に生まれて、
同じ時代に生まれて、
同じ学校に通って、
俺が男で君が女の子
これだけでもすごい確率、
すごい運命だ。




それなら、もう少し欲張って



願わくば
どうか君の小指と俺の小指が
深く深く

結ばれていますように