名前子と付き合うようになって早三ヶ月。

毎日が夢のように楽しい。

どれだけ一緒にいても足りひんくらいや。


やけど、1人になった時にたまに思う。


楽しいの、俺だけやったらどうしよう。
"付き合う"ってこれでいいんやろか。
俺はちゃんと名前子の彼氏としての役割を果たせてるんやろか。


もちろん恋人らしいことはしてる。

2人で遊びに行ったり、手を繋いだり
キスも、した。
こないだした。

今まで生きてきた中で一番ちゃうやろかってくらい幸せやった。


部活がある俺を残して、家族が旅行に行った時

これはチャンス、と名前子を部屋に招いた。

2人っきりの部屋で、優しく抱きしめてキスをする。
俺の計画は完璧なはずやった。


やけど、いざその時になると
緊張して思うような行動がとれへん。

こと名前子に関しては、俺はありえへんくらい臆病になってしまうらしい。
嫌われたくないんや。
大切すぎて。



そんな臆病な俺がやっと行動できたのは、帰り際。
帰る頃にはすっかり暗くなってたから、家まで送るわと一緒に玄関に降りた時。

家を出る直前に玄関の電気を消すと、目の前の彼女すら見えへんほどすっかり真っ暗。

そうなると、自然に腕が動いて
気付いたら時には俺の手は名前子の背中を引き寄せてた。


そのまま顔を近付けて大成功、というのは甘いようで


暗くて見えへんながらも勘で近付けた俺の唇は、名前子の頬に着陸した。



………ダサっ


けどそこで引き下がるわけもなく、
2回目で名前子の唇を捕まえた。



……あかん、思い出しただけでにやけてきた。




やけど、こうやって満足してるのが
俺だけやったらどうしよう
っていう不安は消えへん。



目の前でうまそうにチョコを食べる名前子をかわいいなと見ながらぼんやりと考えた。



「なぁなぁ白石、名字!これ知ってるかー?」

名前子の前の席に向かい合って座る俺らのところへ謙也がやってきた。

そういえば今は学校の休み時間やった。
自分の世界に入りすぎてたわ…




「新しいたこやき屋できたらしいでー!今日行こうや!」

謙也が目を輝かせながらチラシをバサッと机に広げた。


そこに載ってる店の地図、この辺りって…
あぁ、あれか


「あ、これって前に映画見た時に工事中だった場所だよね。たこやきのお店だったんだー」


名前子も覚えてたみたいや。

そうそう、ほんで確か…


「そやな。名前子が『映画のチケットなくしたかも〜』って半泣きやった時やな」 

「それは別に言わなくていいでしょー!」


案の定少し顔を赤くして抗議する名前子に、笑みがこぼれた。

ほんまかわいい




「お前らなぁ、2人しかわからん話で盛り上がんなや」


あ、すまん


「まぁええけど。今日の放課後行くからなー!」

そう言って謙也は再び教室から走り去った。
せわしないやっちゃなぁ






「ふふ…」

謙也の後ろ姿を目で見送ったあと、急に名前子が笑い出した。


「どうしたん?」


「いや、なんかね。楽しいなって」


謙也がか?

意図がよく理解できずに、次の言葉を待った。


「謙也くんには悪いかなって思うんだけど、さっきので思っちゃったんだ」


伏し目がちでいたずらっ子のように笑う彼女に
引き込まれるようにじっと見た。



「付き合うってさ、2人だけの秘密を、いっぱいつくることなんだろうね。楽しいよね。」


そう言って照れながら笑う名前子に、心がこそばくなった。



2人だけの秘密か…


そうかもしれんな。



2人で遊びに行った日におこった出来事も
手を繋ぐことも
キスしたことも

全部


2人だけの秘密
2人だけの約束


そう思うと、深く考えすぎてた俺の心は一気にするすると解かれていった。


俺、なんで変に考えすぎてたんやろう。
名前子はどんな些細なことでも、いつもこんな風に楽しそうに笑ってくれてたのに
勝手に1人で不安になって…俺アホやなぁ。




まだにこにこと笑っている名前子

更に愛しい気持ちが大きくなって、
抱きしめたくてしょうがなくなった


けど、まだ学校やから…



誰にも見られへんように
机の下にまわした手を、こっそり繋いだ。



これも、2人だけの秘密