授業が終わり、向かった先は3年B組。
ブン太や仁王にテニス部の連絡事項があるから、というわけではなく
目的は、彼女である名前子に会うことだ。



B組の教室に入ると、数学の教師の前でうな垂れる名前子とブン太の姿が見えた。

二人の手には、何やら1枚の紙。



…大方予想はつくな







「精市!数学教えて……!」



先生が職員室に戻っていく姿を見送ってから名前子に近付くと、案の定
数学の小テストの点数が悪かったらしく、再テストがあるのと泣きついてきた。


目の前に広げられた小テスト


「うん、ひどい点数だね」


少し涙目になりながら、教えてと訴えてくる彼女

かわいいなぁと思いながら快諾した。



「甘い!甘いぜ幸村くん!」


そんなやり取りを隣で見ていたブン太がテストを握りしめながら声を上げた。


「甘いって、何が?」


「名字に甘い!」



そうかな…?



…まぁ確かに、この前赤也がテストで赤点取った時は少し怒ったけど…
でもあれは中間期末の大事なテストの話だ。
今回名前子が赤点とったのは配点の低い小テスト。
名前子は大事なテストはちゃんと勉強してそこそこの点数を取ってるいるから怒るほどのことじゃない。
なによりがんばってる姿もかわいいし、良い点数が取れた後に嬉しそうに見せてくれる姿もすごくかわい…って脱線してしまったけど…



「ブン太にも優しいだろ?」


「……………部活以外では」


だろ?

なら問題ないじゃない




再び名前子に笑顔で向き直り、放課後図書室で会う約束をしてから自分のクラスに戻った。













「これで合ってる?」

「う〜ん…おしいね。」

「え〜…」


静かな図書室に俺と名前子の声が小さくこだまする。



「ヒントちょうだい」

向かいの席に座る俺に、前のめりになりながらキラキラした目を向けてきた。

思わず答えを教えてあげたくなってしまうけど、それでは名前子のためにならない。
我慢。我慢だ。



「ダメだよ。さっき一つヒント出しただろ。一問につきヒントは一つ。」


「え〜…!だってこの問題他のより難しいよ〜!」

柔らかい頬を膨らませてる。
そんな顔もかわいくて、つい笑ってしまった。


「ね、この問題だけ!もう1こヒントちょーだい!」


眉を下げて控えめにお願いされてしまえば…


あー、もう

とても敵わないよ





「ここのaとdの角度、同じだよね?」


「aとd…………あっ、そっか!そっかぁ!」

わかったらしく、カリカリとシャーペンを動かしはじめた。



こういうところが甘やかしすぎっていわれる原因なのか。

さっきは甘やかしてなんかないって思っていたけど、
これは確かに甘やかしてるかもしれないね。


でも、うん

やっぱりしょうがないよ。



「できたー!精市ありがとね!」



こんなにかわいい彼女が、あんなにかわいく甘えてくるんだから。