部活終わり、駅までの道を歩いていると
バス停に並ぶ人達の中の一人に目が止まった。


どこかで会った覚えがある。

誰だったっけ…



思い出せないのが気持ち悪くて、一生懸命今までの記憶を辿った。


テニスバッグを持ってるから…
テニス関連で会ったのか…?



テニス、

テニス、






あ、

思い出した…




「サトウだ…」

「知り合いか?」

さすが柳、わずかな情報でも聞き逃さない。


「ああ、同じ小学校だった奴だよ。ほら、あそこのバス停。東中の制服でテニスバッグ持ってる男子」



「声かけないんすか?」

「まぁ同じクラスにはなったことなかったし、そんなに親しくないからね。」


「あー、微妙な関係っすね」

うんうんと頷きながら赤也が笑った。





でも実は、一度だけ
そのサトウとテニスの試合をしたことがあるんだ。




あれは小学5年生の頃。


ある日の放課後、ほとんど話したこともないのに俺のところにやって来て

「名字をかけて、テニスで勝負しろ!」

と言ってきたのだ。


たしか彼も俺とは違うテニススクールに通っていたんだ。腕に自信があったのだろう。


名前子はモノじゃないんだから、と適当にあしらっていたけど


「じゃあ名字は俺のモノだな!」

なんて彼が言うもんだから…

俺もまだまだ子どもだったからね


ついカチンときちゃってさ



「わかった、勝負しよう。ただし君が負けたら一生名前子と口をきくなよ」

なんて条件出して
勝負したんだ。



結果は俺の勝ち


あの条件は少し大人気なかったよなぁと今となっては思う
…まぁ実際大人じゃなかったんだけど。


昔の自分の未熟さに、少しの懐かしさと気恥ずかしさを感じた。







「精市おかえりー!」


昔のことを思い出しているうちに、いつのまにか家に着いていたようだ。

幼馴染み兼彼女が家の前で手を振っている。



「ただいま。買い物?」


「うん。明日の牛乳がなくなっちゃって」

ちょうど買い物から帰ってきた名前子が、袋を軽く振って笑った。




この先アイツみたいに、名前子を好きだと言う男が現れるかもしれない。

その時俺は、ちゃんと名前子を繋ぎとめておけるだろうか

名前子は、俺を好きでいてくれるだろうか。



「な、…なに?」


じっと顔を見すぎたようだ
名前子の頬が少し赤くなっている。


ああ、可愛い




「ひゃーっ!何すんのよー!」


いろいろな思いを押し込めるように、名前子の頭をわしゃわしゃ撫でた。




「絶対、離さないからね」




髪をさらりと撫でてから
額にゆっくり唇をおとした。