エアコンで少し暑いくらいの教室の温度
おまけに昼休み直後の現国の授業

誰もが眠たくなる条件が揃っている。

隣の席の名字も例外ではなく、すやすやと夢の中だ。

そんな微笑ましい寝顔を見られるおかげで、俺はちっとも退屈しないし眠たくならない。



名字が寝返りをうつと同時に
午後の穏やかな空気を震わすようにチャイムが鳴り響いた。




むくりと目をこすりながら起きた名字。
そこへ先生が怪しい笑みを浮かべてやって来た。









「ありえない」

「まぁ自業自得じゃない?」

「幸村が起こしてくれたらこんなことにはならなかったんだ。幸村のせいだ」

「そういうの、八つ当たりの責任転嫁っていうんだよ」


授業中居眠りをしていた罰として、400字の読書感想文を今日中に提出しろと言われたらしい。


「すぐ終わるんじゃない?今授業でやってる作品の一部の感想文だろ?」


「でも感想文って苦手なんだもん〜。感想なんて、おもしろかった!でいいでしょ。長々と御託並べるなんてナンセンスだよ」



ぶちぶち文句を言いながら、他のクラスメイトが帰り支度を進める中
名字は国語の教科書とシャーペンを取り出した。






「…幸村はまだ帰らないの?」


ついに教室には俺と名字だけになった。



「部活もないし、ゆっくり読書でもして帰ろうかと思ってね。」

「ふうん」


そう言うと、名字は教科書に向かった。





横顔を盗み見ながら
そんなに一生懸命できるなら、授業中も眠らなければいいのに
と口元がゆるんだ。


いつもぼんやりしてる眉間に珍しくシワが寄ってる。

そんな横顔も、可愛いものだ。




いつも賑やかな教室は静まりかえっていて
名字がシャーペンを動かす音、俺がページをめくる音以外
とても遠く感じる。

もしかして今いるのは違う世界なんじゃないか、とか
日常の中の非日常、とか
ちょっとしたSF小説のような言葉が頭に浮かんだ。


そんなことを考えながら、パラパラと本のページをめくる。

そんなことを考えている間も、名字は真剣に原稿用紙と向き合っている。



数学の問題ならまだしも読書感想文なんて、手伝えることはほぼ無い。


でも見守らずにはいられない。
そんな俺の恋心に名字が気付くはずもない。

でも、それでいいんだ。


俺が今日残ったのは
名字を一人、教室で作業させるのはかわいそうだからというのもあるけど、
俺が名字といたいんだ。




君のそばにいるだけで、こんなにも心が暖かくなるのだから。









「よし!できた!」

「よかったね。」

もう少し
終わらなくてもよかったんだけどなぁ。
なんて自分勝手な意見だけど。


残念に思いながらもパタンと本を閉じた。




「幸村、ありがとね」

「何が?」




「待っててくれたんでしょ?一緒に帰ろうよ」



まだポカンとする俺に、名字はにこっと笑ってカバンを持った。




君はほんとに、俺の心をくすぐるのがうまいよね。


気付いてくれなくてもいいなんて思っていたのに

君が気付いてくれたことで、こんなにも暖かくてくすぐったいよ。






これだから、君を好きなことをやめられないんだ。