あれからすーごく考えた




もうこうなったら物を買うんじゃなくて、作ってしまおう!


一日で作れて、誕生日にぴったりなものと言えば

ケーキだ!
誕生日ケーキを作ろう!




ただ買って渡すより、作った方が愛情たっぷりって感じがするよね!


幸い今日の授業はお昼まで。
ダッシュで帰って精市が部活終わるまでにケーキを完成させればいい。


そう心に決めた私は、授業が終わるチャイムが鳴ったとたんダッシュで教室を飛び出した。

作り方や材料は休み時間に携帯で調べておいたし、あとはスーパーで材料を買って帰って作るのみ!

バニラエッセンスやベーキングパウダーなんて普段ぜんぜん買わないから、売り場を見つけるのに苦戦したけど
なんとか全部揃えて自宅に駆け込んだ。


「ケーキって作るの難しいのよー?」

「難しいからこそやる意味があるのよ!キッチン使うから入ってこないでね!」
心配そうなお母さんをキッチンからぐいぐい押し出して、準備完了!



いざ、勝負!













「………なにこれぇ〜……」

材料を調べた通り入れて、混ぜたのに

焼きあがったのはペタンコのスポンジ


「なんで〜…?」


もう精市帰ってきちゃうよ…

とりあえずまだ材料はあるから…


もう一度…!




「名前子〜、精市くんが来てくれたわよ〜」


「えぇ?!」

だんだん精市の足音がキッチンに近付いてくるのがわかる

だめ!まだだめ!

急いでキッチンのドアが開かないように抑えた


「…あれ?名前子開けてよ。いるんだろ?」

「ごっごめん!今立て込んでてさ!後で行くから家で待ってて!」

ガタガタ揺れるドアを必死で抑える

くぅ〜!ば か ぢ か ら…!


「嫌だ。開けてよ」

「だめ!入ってきたらパンチするよ!」

「全部除けられる自信あるけ、ど」

ガタンと大きな音がしたかと思うと
あらまぁなんということでしょう、そこには精市の姿が



すぐに精市は、不出来なケーキを見つけたらしく
すたすたと真っ直ぐケーキに向かって行く

「ケーキ?」

「あ、それ……その…精市に…。ちょっと…失敗して…作り直すから…!その…ごめん…」


せっかくの誕生日に
こんなペタンコのケーキを見られて…
情けなさでいっぱいだ


「俺に…?」


きっと呆れてしまっただろう。
ほんと私ってダメな奴だ

がっかりした精市の顔なんて見たくなくて
顔を上げることができなかった。



「……っ!」

下ばかり向いてる私の腕や背中が、ふわりと温かさに包まれたかと思うと
ぎゅうううと潰されかねない力で抱きしめられた


「いっ痛い痛い痛い!!」

なに?!怒りで絞め殺される…?!




「あ、ごめん。嬉しすぎて…力加減できなかった」


う…嬉しい…?

ポカンとまぬけ面で精市を見ると、ニコっと無邪気な笑顔を向けられた


「嬉しいよ。俺のために作ってくれたんだろ?本当に、何より嬉しい」


その顔は本当に嬉しそうで、なんだか泣きそうになった。


「よし、俺の部屋で食べよ。柳からの誕生日プレゼント見ながらね。」

「それ何?」


「DVDらしい。柳が幼馴染と一緒に見てくれって言ってたよ。」

なんだろう。
心当たりが全く無く、何が入っているのか気になったので
不細工なケーキを持って、精市の部屋へ向かった


私のケーキなんかにはもったいないくらい良い香りを醸し出している紅茶を飲みながら
柳くんから貰ったDVDを再生。




なんかドキドキするなー……







『おはよー………?』

『おっはよー名前子!』


え。


………えぇ?!??!



「ちょ…なに、これ?え、なんで?」



これ、私ー!!


「へぇ…」

「へぇじゃないよ!ちょ!止めて止めて!」


「嫌だね」


リモコンは精市の手の中にあるため、奪うことができない。

その間もどんどん映像は進む


精市のプレゼントをどうしようか迷う私
授業中にあくびしたり寝たりする私
お弁当を食べる私


これ………
みっちゃんが撮ってたビデオ……?!


必死で7日前のことを思い出した


あの時みっちゃんはクラスのみんなに配るためって言ってけど…
その映像がここにあるってことは…

あれはウソで、
みっちゃんと柳くんはグル?!

あの2人が海原祭で会ってしまったのが運の尽き…


ありえないっ!恥ずかしい!




「あーおもしろかった」

恥ずかしさで目と耳を塞いでもがいているうちに、どうやら終わったらしい


「名前子って、普段あんな学校生活送ってるんだね」


そうですよ…
ダラダラ過ごしてますよ…



「柳は何でもお見通しなんだね」

「?」

「前も言ったけどさ、名前子と同じ中学通いたかったんだよね。どんな学校生活送ってるのか一度見てみたかったんだ。」


そう言えば、そんなこと言ってたな…


「入学式の日も、何で俺と違う学校なんか行くんだよって、ちょっと思ってた」


少し寂しそうな笑顔に
桜の香りと、新しい制服の香り、今より幼い精市の顔が重なった。



「でももう…俺のものだし、ね」



近付く距離に覚悟して目をぎゅっと瞑ると、
頬をぐいっとつねられた


「なっ…!!」

一人でその気になった私がバカみたいじゃないかと、熱い顔で文句を言ってやろうと思った瞬間




唇を塞がれてしまった






「あれ?どうしちゃったの?」


誰のせいだと思ってるのよ…!
わかってるくせに、からかうようにそんな事を言う


悔しいからこんな赤い顔見せたくない

というか恥ずかしすぎて顔を上げられない…

両手で顔を覆いながら、
絞り出すように口を開いた




「誕生日、おめでとう……」