私達がまだ小学6年生だったころ、よく2人で一緒に宿題をしたものだ。

精市は昔から頭が良くて、勉強を教えてくれることが多かった。



「え、名前子立海受けないの?」


学校が終わって、一緒に宿題をしている時
話は自然と中学受験の話になった。


「受けないよー。だってちょっと遠いし。」

「俺は立海に行くのに?」

「そりゃ精市はね。立海はテニスの設備良いし。私はテニスやってないしわざわざ立海通う理由ないもん。」


もっともな理由を言っても、精市は不満気な顔だ

学校が違ったって家が隣なんだし。
そんなに気にすることじゃないと思うんだよね〜


「志望校は?決まってるの?」

「あ、うん!そうだ、見て見て!」


迷わず机の一番下の引き出しを開けた。
一番下の引き出しは大事な物を入れる専用。
整理整頓が苦手な私に「俺もやってる方法だよ」と精市が教えてくれた片付け方だ。


そこから志望校のパンフレットを取り出し、広げて見せた。


「こっちかこっちにしようと思ってるんだけどー」

「女子校と、共学か…」

「うん!どっちが良いかなぁ?制服はどっちもかわいいでしょ〜」


すると精市は、キッと真剣な目をこちらに向けた

「女子校。絶対に女子校。女子校しか認めない。」


…別に精市に認められる必要はないと思うんだけど…


「まぁこっちの女子校の方はリボンでかわいいもんね。」

「パンフレットを比べても女子校の方がカリキュラムが充実してそうだし、将来役立つとと思うよ。」

「へ〜、そんなとこ見てなかった〜!」

制服とか校舎のきれいさしか見てなかったよわたし




その日から、どちらでも好きな方を選べば?と言っていたお母さんも
精市の口車に乗せられて
「女子校の方が良いわね」と言い出すようになり、とんとんと流れに乗って女子校を受験し
無事合格することができた。

成績の良い精市も当然のように立海に合格。


受験生を祝福するように咲いた桜を背に
私達は入学式を向かえた。

新しい制服に、どうしようもなくわくわくして
精市の家に突撃だ


「精市見て見てー!制服!かわいいで…しょ…」


バーンと精市の部屋のドアを開けると、立海の制服に身を包んだ彼が
こちらにゆっくりと振り返った。



その姿はいつもより大人びて見えて
毎日顔を合わせているはずなのに
少しの緊張が体中を走った



「へぇ、いいね。」

「…うん」

「やけにおとなしいね。…あ、リボン解けかけてるよ」


「うん…まだ加減がよくわからなくて…結び目が緩かったかな」



みたいだね、と笑いながら
精市が丁寧な手付きでリボンを結んでくれた

なんか、胸元でこしょこしょされるのがくすぐったい。
リボンを結ぶためにうつむき加減になった精市の顔とか、まつげとかに目が言ってしまって
勝手に照れてしまう。


「できた」

「あ、うまい」
私が自分で結んだのより、はるかに綺麗だ。
毎日結んでくれないかなぁ



「うん、よく似合ってるよ」


精市のその笑顔は
笑っているのになんだか寂しそうで

私はその顔をなかなか忘れることができなかった。