んな日にも 15
結局さらに数日たっても沢田さんを思い出してはモンモンとする日々が続き、普段は何を考えていたのか分からなくなるくらいに頭の中は沢田さんばかりだった。
しかし今は客がいないとしても仕事中だ。無理やり企画書に集中しようとしたところで店のドアが開く。午前中に客が来ることは珍しく油断していた。
「いらっしゃいま…」
サッとレジカウンターから出て声をかけ、お辞儀をしようとしたが、出来なかった。
そこには常に俺の中を独占してやまなかった彼がいた。
記憶と寸分狂わず、ドアからひょっこり顔を覗かせ店内を伺いながら俺を見つけて小さく会釈する、奥ゆかしく可愛らしい沢田さんが。
「沢…田…さん…」
「獄寺さん!覚えててくれたんですね、良かった!」
店内へ進み入り、キラキラ可愛い笑顔で俺に歩み寄る姿にドックン…と一度大きく跳ねた心臓が痛い。
決定的だな。俺はこの人が好きだ。
それがどういった意味だとかはもういい。強いて言えば全てだ。愛情でも親愛でも友愛でも、この人に繋がるものなら何だって構わない。
ただただ、愛しい。そう思う。
俺の足は勝手に沢田さんに近づき、手は勝手に沢田さんの柔らかくてフワフワな髪を梳くように撫でる。
この一週間の鬱憤を晴らすかのように、体は正直に欲望の赴くままだ。
頭の隅では駄目だと誰かが言っているが、目の前にあるこの飴色の瞳に吸い込まれるようで、身体に何とも言えない高揚感が広がる。
しかし、これは夢ではないから俺の好き勝手に事が運ぶわけはない。
沢田さんの瞳が俺の視線から逃れるように外され、可愛い顔が俯くことで見えなくなる。
そこでまともな俺の思考がやっと権力を奪い返し、バッっと手を引っ込めて後ずさる。
「あっ…あの…これは、その…」
俺はいったいどーしちまったんだ…また自分から嫌われるような事を…。心と身体がまるでチグハグだ。
「獄寺さん…」
「はっ、はい!」
「俺って、撫でやすいんですかね?」
「え…?」
「ディーノさんや、山本にもよく頭を撫でられるんですよ。まぁ、すぐ振り払いますが…。でも、獄寺さんの撫で方は何だか気持ち良いですね」
沢田さんは俯いていた顔をパッと上げると、頬を色づかせながらそんな事を言った。
…ディーノ!!またお前かっ!!
ってか、山本って誰っすかっ!!!!
それより!気持ち良い!?気持ち良い!?えぇ!?