の香り 4
綱吉は背筋をゾクリとふるわせて耳まで真っ赤にさせながらも、パニックを通り越して少し冷静になってきていた。
「お、俺だって、惑わせたい人、いる!」
「………っっ!?」
思いもよらぬ返答に獄寺は綱吉の両肩を掴んで自身から引き離し綱吉を見る。
その不安そうな顔と余裕無い行動が綱吉を安心させるなんて獄寺は微塵も思っていないだろう。
少し意地悪をしてしまったが、心臓が壊れるんじゃないかってくらいドキドキさせられたんだから、そのお返し。とは獄寺には言ってあげずにニッコリ微笑むと、柔らかく獄寺の手を自身の肩から引き離して逆に獄寺をその胸に抱き込む。
「お、俺だって獄寺君をま、惑わせたいよ?」
毛先をワックスではねさせている綺麗な銀色の髪を撫でながら告げると、もそもそと胸の中から獄寺は顔を上げて
「じゅーだいめぇ〜」
と潤んだ瞳を向ける。綱吉はその鼻先にチュッとキスをして、さっきのお返し!と笑った。
すると獄寺は「ゔぅぅぅ〜」とよくわからないうめき声を上げながら綱吉の胸にグリグリと擦り付く。
少々痛いが、自分から甘えるのが苦手なため獄寺から甘えられているこの状況をラッキーとばかりに好きにさせる。
しかしそれがいけなかったのか、獄寺の甘えモードのスイッチが切れる事は無く、食事の時はまるで雛鳥に餌をやる母鳥の気分になり、何とかお風呂は別に入ったが獄寺が髪の毛を乾かす時間も惜しんで綱吉に纏わりつくものだからドライヤーもやってあげた。
いつもなら絶対に逆の状況が綱吉もたまらなく嬉しくて、ついかまってしまうから獄寺のスイッチが切れない。なんて、世の中薔薇色に見えているこのバカップルには到底気付けない事実。
結局、翌日綱吉が獄寺の家を出る夕方まで獄寺はまるでコアラの赤ちゃんのように前から後ろからと、綱吉から離れようとせずにへばりついていた。