の香り
先日屋上でパルファムの話をしたのをきっかけに獄寺は週末、綱吉を自宅へ招いた。
「お邪魔しま〜す。これ、母さんが持ってけって。」
「そんなお気遣い…すみません!」
「いや、いつも獄寺君が持ってきてくれるものに比べたら全然大したこと無いから気にしないで」
恐縮する獄寺へ手みやげを渡すと最近勝手知ったる家へ上がり、家主より先にリビングへと入る。
すると、見慣れたいつものテーブルに見慣れない小瓶が並んでいて綱吉は小走りに近づく。
「あ!これ?」
「えぇ、探してみたらわりとありました。十代目、カフェオレで良いっすか?」
「うん、ありがとう」
「いえ、入れてくるんで見てて下さい」
言って獄寺はキッチンへ入り、綱吉は大小様々な色と形の小瓶たちへと手をのばした。
綱吉の来る時間を見計らって用意していたので獄寺は飲み物とお菓子を持って直ぐに戻ると、目をキラキラさせながら小瓶を見ている綱吉に頬が緩む。
獄寺に気付いてパッと顔を上げ
「瓶の形だけ見てても楽しいね!これなんて形がすごい可愛い♪」
とはしゃぐ姿に獄寺は内心で(可愛いのはあなたの方でしょう!!)と叫び、持っている物をぶちまけないように耐えるのに必死だ。
何とか表面上は落ち着かせて綱吉にカフェオレを差し出して隣に座る。
そして近くに置いておいた紙を取り、手近にあった小瓶の液体をシュッと紙に吹き付ける。
その一連の動作に綱吉はぽ〜と見とれる。
(何の気なしの動きが何でこんなに格好いいの…何か、ずるい…)
視線に気付いた獄寺はニッコリと微笑んで、先ほどの紙を綱吉の前でパタパタと振る。
「匂いを確かめる時はこーすると良いんすよ」
「あ、なるほど!分かった!」
頬を赤くしながら慌てて視線を小瓶達に向ける様子に更に頬は緩む。
「自惚れちまっても、いいんすかね…」
「え?何?」
ちゅっ…
「え?鼻?…え?」
「さ、十代目。好みの匂いがあるか探しましょ?」
ボソリと呟きが聞こえ、綱吉が顔をそちらに向けたのを良い事に、獄寺は綱吉の鼻に小さくキスをした。
しかし、自分で仕掛けといて何だが、これ以上は理性が保たなくなるのであっさりと引き下がる。
(…やっぱり獄寺君はずるい。)
綱吉はそう思うが、このやりとりを続けても不毛だろうと思い直し、獄寺にならって紙に液体を吹き付ける。