さな夕日 5
「おはようございます、10代目!」
「おはよう、獄寺くん」
次の日、いつものように綱吉を迎えに行った獄寺は、早々に度肝を抜かれることになる。
「あ、獄寺くん。昨日は風船ありがとね」
「なッ‥‥何故それを‥‥‥!」
「あはは、あれやっぱりキミだったんだ」
朗らかに笑って歩き出した綱吉に、慌てふためきながら獄寺も、ついて歩く。うさぎさんの中身が獄寺だと、綱吉は知っていたのだろうか?綱吉がやらされそうになった用事を、代わって引き受けたとは知らせずにいようと思っていたのに、山本がしゃべったのだろうか。
「じゅ、10代目、なぜ‥‥‥」
「んー?だって、オレにあんなに一生懸命何かをくれるひとなんて、キミ以外いないもん」
まさか、風船までくれるとは思わなかったけど、と綱吉はイタズラそうに笑う。バツの悪い獄寺だったが、それではありがとうとにっこり笑ったあの表情は、自分に向けられたものだったのだと思うと、じんわりとしあわせな気持ちになる。
「お‥‥お恥ずかしいっス‥‥‥」
「えー、可愛かったよ、うさぎさん!」
「じゅ、じゅーだいめぇ〜!」
真っ赤になって照れる獄寺が可愛いのか、綱吉は朝からずいぶんと機嫌がいい。ふっと笑い声が止むと、目を細め、あのね、と話し始める。
「‥‥‥昨日、あの後少し曇ってきちゃったろ?」
「はい?‥‥ああ、そうでしたね」
「でも、オレには獄寺くんのくれたオレンジの風船があったから。――‥ちいさい夕陽と、歩いてるみたいだったよ」
だから、ありがとう、とまた綱吉は、ふわりと笑った。そこまで考えて渡したわけではなかった獄寺は、恐縮し、あわあわと何を言っていいかわからなくなった。
ただ獄寺は、綱吉が戦いの時に放つ美しい炎の色、はちみつを溶いたような彼の瞳の色、明るい紅茶のような髪の色―――そうしたものに近いと思ったから、オレンジの風船を渡したのだ。それを、そんな風に綺麗に受け取ってくれるなんて。
だけど、綱吉の笑みを見つめていたら、余計なことを言うのは止めようと獄寺は思った。獄寺がどんな思惑で寄越したものであろうと、そんなことはどうでもいい。
「―――‥‥どういたしまして」
綱吉が喜んでくれた、それがすべて。獄寺が微笑むと、綱吉の頬はあの風船のように染まった。
綱吉の話によると、風船は朝には半分ほどしぼんでしまったという。しかし綱吉には、獄寺が贈ってくれたものを、おいそれと捨てる気はないらしい。
だから、約束した。今日は帰ったら、あの風船に息を吹き込もう、と。そして、夕方まで晴れていたら、
ちいさな夕陽を手に、本物の夕陽を眺めるのだ。
ふたり、並んで。
end.