さな夕日 3












 商店街に、山のような風船の束を抱えた、くまさんとうさぎさんが現れた。途端、母親に連れられて来ていた子供や、友達同士でうろついていた子供が、ワァッ!と歓声を上げて群がっていく。色とりどりの風船を、我も我もと手を伸ばしては、銘々に受け取って駆けていった。
 商店街で、何かしらキャンペーンがあるのだろう。宣伝の風船配りにかり出されたくまさんとうさぎさんは、次から次へと寄ってくるちびっこにもみくちゃにされながら、もみじのようなてのひらに風船の紐を握らせる。その際くまさんは、ちびっこの頭を撫でたりほっぺたをつついたりと大変愛想がいいが、うさぎさんは風船を渡すだけで精一杯だった。言わずもがな、くまさんとうさぎさんの中身は、山本と獄寺だ。

 うさぎさんの着ぐるみの中、獄寺は確かに、こんなことを愛するひとにはさせられないと思った。

 まず、視界が悪い。中の人間の顔が見えては興ざめだから、必要最低限の隙間が空いているくらいだ。また、そんな状態だから空気が篭る。以前にも何人も入ったからか臭いがするし、篭るといったら体温もそうだから、暑いのだ。春めいてきているのもあって、既に結構汗をかいている。
 ついでに、子供たちがまた情け容赦ない。背中からいきなり飛びついてくるなど可愛い方で、生意気盛りの悪ガキが殴ったり蹴ったりもしてくるのだ。まあ、沢田さん家の牛柄幼児のおかげである程度は慣れているし、くまさんがさりげなくたしなめてくれるので、手や足は上げないで済んでいる。
 何より、獄寺はマフィアだ。マフィアは、一般人には危害を加えない、迷惑をかけないのが鉄則だ。単純に、よその子供に怪我などさせたら、綱吉を悲しませるだろう、という思いもある。おかげで、風船配りはそれなりに穏やかに、何事もなく過ぎていった。

 その内、風船が少なくなって、くまさんが引っ込んだ。新しい風船の補充についても打ち合わせ済みだ。先に少なくなった方が取りに行くことになっていたので、うさぎさんも慌てることなく風船配りを続ける。そんな中、聞き覚えのある声が、うさぎさんの頭を通して獄寺の耳に届いた。




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ー03ー

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