めるもの 4
(背中が温かい…。不思議だなぁ…あんなに苦しかったのに、この温かさが痛みを吸い取ってくれてるみたいだ…)
綱吉は暗闇に立ち尽くしながら、確かベッドに寝ていたはずだからまだ夢の中なんだろうと思う。
そして、まだ誰かに触れられているような背中の温かさに最愛の彼を思った。
(たまに俺が体調を崩したり怪我をすると、痛い場所に静かに手を添えてくれる。
すると、まるでぬくもりが薬みたいに身体に溶けていく。
あの気持ちよさと安心感は何ものにも変えられない。
今回はずっとあの温もりに触れていない。
顔さえ見ていない。)
マフィアのボスが体調不良で心細くて恋人のぬくもりを夢にみているなんて…。
いくら大人になろうと、体の弱りと心の弱りは鍛えられない。
むしろ大人になればなるほど何にも寄りかかれなくなり内面の弱さは広がるばかりだと、綱吉は夢の中で自嘲気味に笑うが、それは決して笑えてはなく、涙が頬を伝う。
このぬくもりが獄寺のもので、今すぐにでも彼に抱きしめてもらえたなら、全身にはびこるこの痛みさえ薄れる気がした。
そう、思えば思うほどに涙は止まらずにこぼれ落ちる。
はたしてこの涙は現実に流れているのか分からない。
けれど、背中に感じる温かさに綱吉の涙はやはり止まない。
すると、背中のぬくもりは離れていってしまった。
綱吉はそのぬくもりを追うように振り返るが辺りは真っ暗闇ですぐに前後左右も分からなくなる。
不安にかられて手をのばしてみても空を切るばかりか、手先の方は闇にのまれて見えなくなるほどだった。
諦めて手を引こうとしたが、その手は暗闇からのばされた別の手に掴まれる。
驚き、手を引こうとしたが、
「綱吉さん…」
暗闇からためらいがちに声が聞こえた。
獄寺の声で、めったに彼によばれない名前をよぶ声が。
嬉しさと寂しさが胸を締め付け、さらに涙が溢れる。
この声が、手が、本物の彼ならどんなに良かっただろうかと。