「では、はじめますね」
言って獄寺さんは俺の左右の爪をあの定規みたいなもので削りだした。
シュッ、シュッと軽く引いていくだけなのに爪の角が綺麗になっていく。
「ヤ、ヤスリですか?」
「えぇ、フィルムって言います。本当は手を湯せんにつけた後に甘皮の処理をしたいんですが、そこまでやるとお客様の時間を取りすぎるから、こうして爪の形を整えて色を塗るとゆう簡易ネイルなんですが…沢田さんは爪が短いのであまり削らない方がいいし、女性っぽくなるのもあれですから、形はスクエアで…」
「俺、今まで爪切りしか使った事ないや…」
「男なんてみんなそんなもんすよ」
喋りながらも獄寺さんの顔は真剣で、触れてる手は凄く大切なもののように扱われる。
一応普段子供達に触れる手だから長くならないように気をつけてはいるけど、みるみる間に爪が綺麗になっていくのには驚いた。
下地のネイルだけでも十分綺麗だと思う。
そして、次はいよいよ色をつけるみたいなんだけど、獄寺さんがネイルと俺を交互に見ては悩んでる。
「…どうしたんですか?(まさか今になって俺にマニキュア塗るのに抵抗が出てきた…?)」
「ん〜、何色が似合うか考えてて…」
「塗る練習なんだから何色でも良いんじゃないですか?」
「いえ!その人に少しでも似合った色を塗りたいんすよ」
「あ…そぅ、ですよね…」
俺、バカだ。獄寺さんははじめっから凄く真剣にやってたのに適当にやればいいみたいな言い方した。
獄寺さんは俺の手にマニキュアを近づけて肌の色と合わせたりしてる。
こうやってると、獄寺さんの真剣な顔がずっと近くにある。
手を軽く握られてる状態が続く。
俺に…いや、お客さんに似合う色を時々顔も見て目が合うと微笑みながら、その人の事だけを考えながら作業していく。
ジュクッ…
俺、本当に馬鹿で…最悪だ。
獄寺さんが俺以外の…女の人に同じ事をするんだと想像して…言いようの無い感覚に襲われた。。。いや、多分分かってる。
言葉にしたくないだけだ。
ー02ー
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