んな日にも 44
手持ちぶたさでソファーのクッションを抱え、チラリとリビングの時計を見ると14時を回ったところだった。ここに来たのが13時頃だから、さっきの出来事は1時間位のもの。
1時間もあんな事してたのか、1時間しか経ってなかったのかよく分からない…思い出すとますます恥ずかしい。けど、嬉しい。
頬が熱くなるのを感じて頭をブンブン振っていると、キッチンの方が何やら騒がしい。
振り返ると獄寺さんが包丁片手にやって来た。
「沢田さん!どうかしたんですか!?」
「…獄寺さんがどーしたんですか?」
そんなに慌てられる理由が分からず聞き返すと、獄寺さんは片足を上げる。吊られて瓜がぶる下がっていた。
…デニムで良かったな。とかいらない事を考えていると
「コイツが必死に俺を沢田さんのところに連れてきたがったんで、何かあったのかと!」
「…?……っ!、アッハハ!!」
「へ?」
「獄寺さん、瓜は言葉が分かるんですね!」
「え、あぁ。たまに俺も本気でそう思いますが…」
「瓜、おいで。獄寺さんには後で遊んでもらおう。今は俺で我慢して」
言うと瓜は獄寺さんの足から離れてこっちへ来た。やっぱり言葉が分かってるとしか思えない。
それに、俺はさっき瓜に“オモチャないの?”と聞いた。それで獄寺さんを引っ張って来たって事は、瓜にとって獄寺さんはオモチャ?
可笑しくて笑ってると獄寺さんは不思議そうに俺を見ていたけど
「火は使ってないんですか?」
と聞くと慌ててキッチンに戻って行った。
やっぱり獄寺さんは王子みたいでかっこいい人なのにけっこう可愛い所も多い。獄寺さんは俺を可愛いなんて言うけど、ギャップがあって、彼の方が…とか思ってるあたり俺も相当だ。
テーブルの上にオモチャの猫じゃらしがあったからそれで瓜と遊ぶ。これは瓜にとってオモチャじゃないんだろうか…。
そんな事を考えているとキッチンから獄寺さんが
「辛いのは大丈夫ですか〜?」
って聞いてくる。
あぁ、なんてのどかな時間。
さっきの事が嘘のよう。
ちょっと前までは考えられなかった風景がここにある。その中に俺がいる。
なんだかくすぐったい感じだけど、きっとこれから楽しい日々が始まるんだ。
なんてガラにもないことを目の前にいる瓜と、奥のキッチンにいる獄寺さんを見ながら思ったこんな日を、俺はずっと忘れない。
end