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私は誇り高き魔獣である。
7人兄弟の長男に生まれ、家族を支えながら今まで立派に生きてきた。
しかし、それが今なぜこうなっているのか…?
「わんちゃあん、ほらぁおいでぇ〜、美味しいビーフジャーキーですよぉ〜」
「……いらん!」
私の目の前にいる男は厭らしい笑みを浮かべながら、ビーフジャーキーとやらを私の口元に持ってくる。
私はそれを首をふって拒否をする。
「むぅぅ、いらないのぉ?」
「私はそんなもの食べない!」
「そおぉ? 美味しいよぉ〜、ほうら良い匂いでしょ?」
男はビーフジャーキーを私の口元にグリグリと押し付ける。と、香ばしい良い薫りがして。
「わん!」
ついぱくりと食べてしまったのである。
しかもそれではもの足りず、つい男の指までペロペロと舐めてしまった。
は、と我に返った時には男はにんまりと笑っていて。
「うふふ〜! 美味しかった? わんこちゃん」
してやられた、と私は悔しくなるのである。
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そもそも私がこんな目に合う羽目になったのは、可愛い末の弟のためであった。
夜になっても巣に帰らない弟を探しに森に行くと、弟はあの魔族の男に連れ去られようとしていたのである。
「にいさま! 助けてぇ!」
「弟に何をするんだ!」
私は男を倒そうと挑んだのだが、男はあっけなく私を倒した。
「弟よ……! お前だけでも逃げるんだ…!」
私はせめて可愛い弟だけでも助けようと力を振り絞り、なんとか弟を逃げさせることに成功した。
「にいさま、にいさま! 必ず助けに行きます! 必ず!」
男に捕まえられた私に弟は涙を流しながらそう叫んだ。
そして私は男の住む城に連れてこられたのである。
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