大好きマーチ2

 そのあと、母さんが家にいないことに気付き、あの男性はお客ではなかったことがわかった。
 慌てた俺は男性が泥棒だったんだと思い、兄さんに電話した。兄さんはすぐに来てくれた。
 そして何か盗まれていないかと調べたが、何にもなかった。

「どんな人だった?」
「ちょっとかっこいい感じのおじさん。背は高め」
「何かされたか?」
「別に……。ただ、俺のこと知ってたみたい」

 兄さんの顔がどんどん険しくなる。

「真知のストーカーか!? なんてことだ…」
「さぁ。あと、母さんによろしくって言ってた」
「母さんに?」

 兄さんの顔が今度は青ざめた。何かに気付いたように俺を見る。
「その人、猫背だった?」
「え、どうだろ………だったかなぁ」

 そんな細かいこと覚えていない。記憶を振り絞ってみると、そうだったような気もする。
 俺はうなずいた。と、兄さんは俺の肩を掴むとじっと俺を見た。

「真知、このことは忘れろ。あと、母さんには絶対に言うな」
「え…」
「絶対だ」

 いきなりそんなこという兄さんに戸惑うが、あまりの形相に俺はうなずいた。
 俺は言い付け通り母さんには何も言わなかった。


******


 あれから少しあと、俺はアルバムを見て気付いた。
 あの男性はずっと俺が恋い焦がれて会いたくてたまらなかった父親とそっくりなのだ。
 もしかして、もしかしたら、と俺の頭が訴える。

 『真知?』

 あの時あそこにいたのは父で、本当は死んでなんかいなくて、小さい頃母が言っていた通り旅に出てただけじゃないかと。
 そして帰ってきたのだ!
 淡い期待が胸を踊らせる。
 俺は兄さんに電話した。

「ねぇ兄さん、この前話した男の人、父さんにそっくりだよ」
「はは、んなわけないだろう」
「でも写真とそっくりなんだ」
「真知、違うよ。絶対に。父さんは死んだんだ」
「でもさ」
「違う。父さんじゃない」

 兄さんの声は冷たかった。そして少し震えてる。
 俺はこの事に触れてはいけないんだ、と気付いた。

「……そ、うだよね。確かによくみたら違うかも」
「そうだよ。違う。真知の勘違いだ」
「うん…ごめんね。じゃあ切るね、またね」

 電話を切ると、恐怖心が俺を襲った。
 俺の父親は生きているのか?
 兄さんは何を隠しているのか?
 どうしてあの時家にいたのか。
 俺は一晩中考えた。だけど答えは出なかった。


******


 日々は過ぎて行き、そのうちあの男のことなんか考えるのはやめた俺だが、今でもふと思い出すのだ。

『お母さんによろしくね』

 そう言って悲しそうに笑う男の顔を。

end


なんか伏せんみたいになってしまいました。
真知のパパの話しは書いたことなかったですが、そのうち本編でも触れたいですね。

今回書いた小話はそれぞれの番外編にも載せるつもりです。

それでは皆さん、最後までありがとうございました!これにて一周年企画は終了です。
一周年ありがとう、はその他にありますのでトップから消えてもまた読めます。
そしてアンケートに参加下さった皆様、ありがとうございました!
これからも頑張ります!



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