大好きマーチ!
小さい頃、何度も母さんに尋ねた。
ねぇママ、なんでぼくの家にはパパがいないの?
母さんは笑って、パパは旅に出てるのよと言った。
大きくなるにつれて、長い旅から帰って来ないのは父が死んだからだと気付いた。
それからは、父に関して母さんに聞くことはなかった。
******
中学生の時いつものように家に帰ると、玄関に見慣れない男ものの靴があった。
「母さん?」
母さんの客が来ているのかと思って母さんを呼ぶ。リビングに入ると、ソファーには見知らぬ男性が1人でいた。
「あ、こんにちは…」
母さんはトイレにでもいっているのか、俺は男性に会釈をした。30代後半くらいだ。割りとかっこいい。
「真知?」
だけど男性は返事をすることなく、俺を見つめるとそういった。
「え、あ、はい。そうですけど…」
挨拶もしないで人を呼び捨てとは、大人のくせに礼儀のなっていないやつだなぁと俺は思いつつもうなずく。
「……そう。それじゃあ僕は帰るから。お母さんによろしくね」
「はぁ。分かりました」
男性はソファーを立つと足早にリビングを出る。俺は慌てて着いて行き、玄関まで見送った。
「あのぅ、母、待たなくていいんですか?」
「………うん、いいんだ」
きっとすぐにトイレ終わりますよ、と言おうとするが男性は逃げるように帰って行った。
玄関の扉を閉めて、ふと気付いた。
「……なんで俺の名前知ってんだ?」
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