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そんなこんなであれから二週間。
俺は葉月の助けもあって、順調に将也と律に二人だけの時間を作ってやることに成功している。
最初と同じく葉月が計画を立てて、俺はそれを実行するだけ。変わらず葉月の作戦は巧妙で――それも俺の口下手さを見越したような内容なのだ――嘘がバレている様子はなかった。
だが、こうも続けばさすがに怪しまれないはずがなく、「最近忙しそうだね」なんて律に探りを入れられてしまったのが昨日のこと。そろそろ、腹を括って二人の関係を知ってしまったことを話すべきなのかもしれないと思っている。
この二週間は、受け入れたとはいえ動揺せずにはいられなかった俺の心を落ちつかせるには十分で、今ならどんな二人の反応にもどんと構えて背中を押してやれそうだった。
生まれて初めて、自主的に二人から離れて過ごした二週間。彼ら以外に友人のいない俺は一人孤独に耐えながら過ごさなければならなかった――はずであったのだが。
寂しいどころか、目まぐるしささえ感じた日々だったのは、間違いなく今回の引き金となった葉月亮太が原因だろう。
初めて会った日以来、なぜか――おそらく監視するためだろうが――一人でいると必ず現れる葉月。昼休みも放課後もなんだかんだで一緒にいるようになったせいで、孤独を感じている暇などなかったのだ。
それも、その間は最初の刺々しさはどこへやら(偉そうなところは変わらないが)、他愛もない世間話をしたりまるで友人同士であるかのような会話を交わしていたりする。
最初、嘘ではなく本当に用事を作ればいいと、自宅へと誘った葉月にきっぱりと断りを入れた俺だが、その後も誘うことを止めない葉月にそこまで言うならと応じたのは、すでに一度や二度ではない回数に及んでいた。
そして、買い物につきあわされたり、結局葉月の家にお邪魔させてもらったり、休日まで誘い出す葉月と過ごしている内に、俺はいつしか笑い合うことさえ珍しくないくらい、彼との時間に楽しさを感じるようになっていた。
葉月が俺といるのはそこまでして二人に近づけさせたくないという目的があるからで、それ以下でもそれ以上でもないことはわかっている。だが、なにもすべてが偽りというわけじゃないだろう。
だから、思ってしまうのだ。
もし――もし、その笑顔に嘘がないのなら。
友達になれるかもしれない、なんて淡い期待を抱いてもいいのだろうか、と。
「――なに?」
無意識の内に葉月を見つめてしまっていたことに気づいたのは、葉月が怪訝そうに俺を振り返ったからだ。
だがなぜか、頭がぼうっとするせいで、答える言葉が思い浮かばなかった。
「眠いの? 別に我慢しなくて寝てくれてもいいよ」
どうやらうまく思考が働かないのは眠いかららしい。葉月に言われて、俺は自分が猛烈な眠気に誘われていることに気づく。
ここは葉月の家で、葉月の自室。
少し居馴れてきた部屋とはいえお邪魔させてもらっている身で寝てしまうのは気が引けるが、部屋の主である葉月からお許しが出たのならば、睡魔に身を委ねてしまってもいいのだろう。
「……う…ん、おやすみ……」
「僕のベッドを使ってもいいよ――って、もう聞いてないか」
机に顔を伏せて目を閉じれば、急速に意識は現実から遠のいて行く。
だから、
「君ってば本当に無防備すぎ」
葉月がそんな俺を見て呆れたように嘆息し、そして。
「――まあ仕方ないんだけどね、一服盛らせてもらったわけだし」
にんまりと笑ったことにも、もちろん俺が気づくことはなかった。
飲み干されたグラスを手にとった葉月は、目を細める。
「大事に守って来たんだろうけどそれが仇になったよね。だって、あんな嘘も簡単に信じちゃうくらい警戒心ないし。まあ僕にとっては好都合だったわけだけど。――精々悔しがるといいよ。君たちが油断してる隙に僕がいただいちゃうからさ」
そんな呟きが、穏やかな寝息の広がる部屋にひっそりと落とされたのであった。
END
ふおおおおおおおお!
こんな素敵な作品をいただけるなんて・・・・!
嬉しすぎてどうにかなりそうです\(^_^)/
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