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「うえぇぇぇん! 痛いよぉぉぉぉ!」
「お、おい、泣くなよ!」
「そんなに痛かったのか?」
「ほっぺがいだいぃぃぃぃぃ!」
親にすら殴られたことはない。僕はグスグスと泣きわめいた。
すると、またもや突然美術室の扉がガラッと開かれた。
「お前ら! よくも倉縞を殴ったな!」
「か、会長!?」
なんと椎名様だった。僕はびっくりして涙が引っ込んだ。やつらもびっくりしたのか、椎名様を見てポカーンと口を開けている。
「倉縞のぷにぷにほっぺを殴りやがって! お前ら覚えてろ! さぁ倉縞、俺と保健室に行こう」
「は、はぁ」
椎名様はパツキンたちを睨むと、僕の手をとって笑顔でそう言った。
え、なにこれどういうこと?
そして訳もわからないまま、僕は椎名様に手を引かれ保健室にやってきた。
「さぁ湿布を貼ってやろう」
「…はぁ、どうも」
目の前にいるのは大好きなあの椎名様なんだけどあまりの事態に僕は呆然とするだけである。なにこれどういうことよ。
「よし、これでオッケー。じゃあ俺は仕事に戻るから倉縞気をつけてな!」
「……はぁ」
「あ、あいつらはちゃんと風紀に言っとくから」
「はぁ」
「それじゃあ、また!」
椎名様は笑顔で去っていく。
なんなのこれ…?
*******
答えは簡単であった。椎名もまた倉縞のストーカーをしていたのである。
美術室から倉縞が自分を盗撮していることを知っていた椎名は、美術室に盗聴器と小型カメラを設置し、生徒会室で倉縞の様子を観察していたのである。
だから倉縞が不良に絡まれたことに気付き、助けにやってきたのである。
「倉縞の泣き顔可愛いなぁ」
生徒会室のパソコンでその時盗撮した倉縞の映像を見ては、椎名はニヤリと笑ったり頭を抱えて悶えたり机をバンバン叩いて萌えていたりするのである。
椎名は倉縞のストーキングにとっくに気付いている。むしろ倉縞を上回るストーカーなので、倉縞は自分が椎名に逆ストーカーされていることなんて気付いていない。
*******
今日も僕は美術室で椎名様を盗撮している。うーん、素敵。
ファインダーを覗きこむ、とカメラにこつんとほっぺがあたり痛みが走った。あの時殴られたほっぺのはれはまだ引いていない。あいつらはあのあと風紀にお叱りを受けたらしい。ざまぁ!
そして残念ながら椎名様とはあれ以来接することは特にない。あの時の僕が早く正気に戻れたらもっと椎名様を堪能できたのに……本当に残念。
「……そういえば椎名様なんで俺が殴られたの分かったんだろ?」
僕は不思議に思いそう呟くのだが、ファインダーに写る椎名様が笑顔になるのを見て慌ててシャッターを切った。
「……新しい写真集の表紙にしよう」
とっても良い笑顔の椎名様の写真を見て僕はそう思った。
end
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