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 もうとにかく散々だった。頭は痛いし仕事はミスるし、昨日と同じネクタイのせいで同僚には囃されるし。
 家に帰った時にはクタクタだった。

「に、ニコラス!」
「ん? あぁ、エディか…」

 帰って倒れるようにソファーに横になるとエディがいた。まだ出ていなかったのか。帰ってそうそううんざりだ。

「昨日の事は、その、間違いなんだ」
「へぇ」
「あんなことするつもりじゃなかったし、まさか僕自身自分があんなことするなんて…」

 エディの焦った声を聞きながら俺はキースの事を考えていた。キースとの事は間違いだ。俺はあんなことするつもりじゃなかった。行きずりなんて…。でもキースの事を考えると胸がひどくドキドキするのを感じた。

「と、とにかく僕が本当に愛してるのは君なんだ! ニコラス!」
「エディ、やっぱりやめた」
「え?」
「俺が出てく」

 だらだら言い訳を垂れるエディに俺は自分の見る目のなさを感じた。エディとの関係を一刻も早く断つのには俺が出ていくのが一番だろう。

「家具は全部お前にやるよ」
「ニコラス、そんな、待って」
「お前とは別れる。それじゃ」

 とりあえず必要な服と貴重品をバッグに全部詰め込むと俺はまた家を出た。エディは追って来なかった。
 車に乗って会社近くのホテルに向かう。部屋を見つけるまではホテルでいいだろう。
 車に乗って一時間。途中で雨が振り出して予定より道が込んだけど、無事ホテルについた。

「いらっしゃいませ」
「部屋、空いてるかな?」
「えぇ空いております。こちらにご記入下さい」

 白髪の感じな良いおじさんだ。俺は用紙に名前とか生年月日とか記入していく。

「ここ、電話番号も書かなきゃ」
「あ、そっか」

 後ろから誰か用紙の見落としを指差されて俺は電話番号を書いた。

「ふうん。どうりで繋がらないわけか」

 電話番号を書き終わると同時に後ろからそう言われて俺は振り返った。

「き、キース!」
「やあ、ニコラス。何度も電話したんだよ?」

 にっこりと微笑むキースは綺麗なんだけど俺は奴から怒りを感じてなんだか怖かった。
 というかなんでここにいるんだ。

「ここ、俺の経営するホテルなんだ」

 俺の心でも読んだかのようにキースは言う。
 しかもキースはホテル経営者だという。びっくり、どころじゃない。

「はは……すげぇ偶然だな」
「そうだね。君の本当の電話番号もゲットできたしラッキー」

 ちくりと嫌みを言うキースに俺は恐怖を感じているが、それと同時に胸の高鳴りも感じていた。またこのハンサムに会えるとは思っていなかった。
 たった一夜限りの過ち、そう思っていた。

「……それで、君は俺の電話番号知りたい? ニコラス?」

 妖しく微笑んでキースは俺の耳にそう囁いた。
 もう普段だったら本当に絶対こんな怪しい奴とは付き合ったりしない。絶対にね。

「知りたい…かも」

 でも俺はなぜか奴の言葉に頷いてしまっていた。

「決まり。じゃあ俺の部屋においでよ。そこで教えてあげる」
「……うん」


*******


 このあと、やっぱり俺は美味しくキースにいただかれてしまってなぜか猛プッシュされ付き合うことになった。
 だけど後にキースが悪魔みたいな性悪だって知った俺はこの事を激しく後悔することになる。まぁ逃げられやしないんだけど。
 でもそれはもっとずっとあとの話し……。今の俺は知るよしもない。

end



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