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もしそうならば葛西に悪いことをしてしまった。後ろを向いているのは俺に呆れているからだろうか。
「か、葛西あの……」
「え、えーっと、葛西? くん? どうかしたのかい?」
俺が言葉につまっていると、兄さんが優しげな声を出して葛西に話しかける。兄さんはきっと、顔を見せない葛西の事をシャイなやつだと思っているのだろう。実際の葛西は開けっぴろげなやつだが。
「あの、その、私…」
もじもじしながらゆっくりと振り返る葛西。期待に包まれて葛西を見る俺と兄さん。
しかし…
「こ、こんにちは…お兄さま…」
「か、葛西! お前!」
葛西の顔はまたデーモン閣下に戻っていた。無言の兄さんをそっと盗み見ると、口をぽかーんと開けて固まっていた。
俺は葛西に近づき、兄さんに聞こえないよう小声で話しかける。
「なんでまた化粧してるんだ!」
「だ、だってぇ…すっぴんは恥ずかしくて…」
「だ、だからって…」
デーモンはないだろう。
そう言いそうになるのをグッとこらえて俺は兄さんを見つめる。どう言い訳をしようか。
「あ、兄さんその、葛西は……」
「……葛西君は?」
「バンドに入ってるんだ。うん、そうなんだ。コピーバンドをしてて、今日もリハーサルがあったから、うん、化粧してるんだ。ほら、もうすぐ文化祭だからね」
我ながらなかなかうまい嘘である。これなら兄さんも信じるだろう。
「そ、うなんだ。すごいね」
ほら、信じた。やった!
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