日溜まりの中で

 いつも通り、二人きりの夕食を終えて少し談笑している時だった。マリアは何か言いたそうにモジモジとして、私はどうしたんだい? と問いかけた。マリアはふぅ、と深呼吸をし始めた。

「驚くと思うけど…」
「なんだい?」

 私は緊張しているように見えるマリアを安心させようと優しく尋ねた。

「兄さん、あ、あのね、私プロポーズされたわ!」

 八つ下の十八歳になったばかりの妹、マリアは白い頬を赤く染めながら、どこか気恥ずかしそうに私にそう言った。
 マリアに恋人がいるのは薄々気づいてはいたが、私はまさかいきなりプロポーズの話しを聞くとは思ってはいなかった。

「そうか、おめでとう」

 私は驚きながらも、マリアの結婚に喜びを感じた。
 私がそう言うとマリアは幸せそうに笑った。

「でも、その、兄さんには彼の話し何にもしてなかったでしょう?」
「いやぁ、気にすることはないさ。良い青年なんだろう?」
「……えぇ」

 マリアは照れくさそうに少し視線を下げた。そんなマリアが微笑ましく、私はまるで自分が結婚するかのような幸せを感じた。

「いつ会えるのかな?」

 私は訪ねる。

「彼はすぐにでも挨拶したいと言ってるわ。」
「では明後日にでも連れてきなさい。夕食に招待しよう」
「分かったわ! 明日彼に伝えるわ。楽しみね!」

 マリアは浮かれたようにくるりと回って、花柄のスカートがひらひらと舞った。きゃ、と慌ててマリアはスカートを押さえる。

「おてんばめ」

 からかうように言って、私はくすりと笑みを溢した。
 マリアは恥ずかしそうに、でもやはり嬉しそうに「おやすみなさい」と言って自室へ行った。
 私もさあ寝ようと明日の仕事の準備をしていると、二階からマリアの少し外れた鼻歌が聞こえてきた。今度は声を上げて笑った。


*****


 マリア同様、彼女の結婚に浮かれていた私は職場である町の図書館で鼻歌を歌っていたようだ。
 同僚に注意されて慌てて鼻歌を止めた。周りを見渡すと、図書館に訪れている人達は私の鼻歌聞こえていなかったようで、少し安心した。



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